「人斬りジミーと知ってのことか」
佐藤は、ジミーを制した。
「やめねえかい」
ジミーは、佐藤に巻き舌の江戸弁で食ってかかった。
「うるせえ!小僧!」
佐藤が、得意の柔道の技である小内刈りで、ジミーを投げ倒した。
ジミーは、もんどり打って倒れた。
花形が、すかさずジミーの顔面に右拳を叩き込んだ。ジミーの鼻から、どっと血が吹き出した。
が、ジミーは、吹き出す鼻血を拭きもせず、起き上がった。
「よくも、やりやがったな。おれを、人斬りジミーと知ってのことか」
ジミーは、花形めがけて殴りかかった。
花形は、右に軽くよけた。
佐藤が、ジミーの襟首を掴み、一本背負いで地面に叩きつけた。ジミーは、長い舌を出し、のびてしまった。
花形と佐藤は、見向きもしないで、歩き始めた。ジミーは、血まみれの顔でうめいた。
「よくも、人を舐めやがって……」
天井裏から日本刀を…
ジミーは、急いで自宅に帰った。
自宅には、妻がいた。彼女は、通称お蝶と呼ばれる渋谷で顔の売れた女ヤクザである。
夫からやられたいきさつを聞くと、お蝶は、夫以上に悔しがった。
「あんた、渋谷でのされて、このまま黙っていては、名折れになるわよ」
ジミーは、妻に煽られ、2階の天井裏から日本刀を取り出した。刃渡り42センチのものであった。
ジミーは、泥だらけの服を革ジャンパーに着替えた。喧嘩支度で、家を出た。日本刀は、レインコートに巻いていた。
お蝶も、夫のあとに従った。
2人は、花形と佐藤の立ち寄りそうなキャッチバーを、一軒一軒探しまわった。が、花形も佐藤も、ついに見つからなかった。
そのうち、ジミーは、顔見知りの喫茶店のマスターになだめられた。
「おい、みっともねえことは、やめろよ」
2人は、社交喫茶店組合の事務所で出されたビールを飲み始めた。真夜中の1時過ぎ、その事務所の前を、花形と佐藤が通りかかった。ジミーは、2人を眼にするや、殺気立った。