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――でも、三ツ矢さんはテレビ番組で「『タッチ』の上杉達也の声でひと言」など、よくリクエストされますよね。そういうのも本当は、やりたくない?

三ツ矢 はっきり言って、僕はあれはすっごく恥ずかしいんです。画面に自分の顔が映っているのにキャラクターの声を演じるのは、ものすごく恥ずかしい。ただ「声優」として番組に出ている以上、視聴者がそれを見たいのもわかるので頑張ってやっていますが、本当はあまりやりたくないですね。

©橋本篤/文藝春秋

――三ツ矢さんは昭和の声優ブームの頃から当事者として関わってきましたが、最近の声優ブームの過熱ぶりは、以前とは様相が違いますよね。なぜこのような状況になったのでしょう。

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三ツ矢 今の声優ファンは「声優にキャラクターを重ねて好きになっている」からだと思います。昔の声優ファンは、好きになる対象は声優本人だったんですよ。ファンになるきっかけはキャラクターだとしても、ハマるにつれて声優本人の追っかけになる人が多かった。

「でも今の声優ブームは『キャラクター×声優』がセットになっています」

――「『タッチ』の上杉達也をきっかけに、三ツ矢雄二さんのファンになる」ような形ですね。

三ツ矢 そうです。でも今の声優ブームは、「キャラクター×声優」のセットになっています。まずキャラクターの人気が上がって、次に「〇〇(キャラクター名)の声の人」という形で、キャラクターに付随して声優本人の人気が出る。

 その結果、ひとつの当たり役で人気になると、「あのキャラの印象が強いから」と懸念されて、他の役で起用されない声優がすごく増えているんです。これだと、若い声優さんたちがどんどん使い捨てにされちゃうじゃないですか。

©橋本篤/文藝春秋

――確かに、一度大きな役でヒットが出ると、その後のキャリアで迷走する声優さんは多い気がします。三ツ矢さんは他にも、今の声優業界や声優ブームを憂う発言をしていますが、一番気になるのはどんなことですか。

三ツ矢 別に、声優業界に対して怒っているわけじゃないんですよ。ただ、この15年ほどで業界は大きく変わってしまったので、僕たち声優も、今までの常識が通用すると思ってはいけない。僕もベテランといわれる年齢になってきたので、こういう意見を言う人が1人いてもいいかなと思っているんです。

 僕がこの仕事を始めたのは約50年前、1976年です。当時の声優業界には、自分たちはあくまで〈裏方〉という意識がありました。ところが何度かの声優ブームを経て、今の声優業界は〈プチ芸能界〉化してしまいました。