このため石川県もトキの放鳥を目指しており、能登の9市町に「放鳥推進モデル地区」を設けて、生物多様性の復活など環境を整備している。珠洲市では宿から6kmほど離れた粟津地区が選ばれた。
トキが放鳥できるほどに復活した環境を「国立公園の特別保護地区にしたい」というのが刀禰さんの願いだ。刀禰さんが会頭を務める珠洲商工会議所は、県が組織した「能登地域トキ放鳥受入推進協議会」のメンバーになっており、刀禰さん自身は幹事を務める。それだけに思い入れは強い。
世界のアーティストが作品を展示する「奥能登国際芸術祭」
「私は世界中の特別保護区を見てきたのですが、今まさにそうした地区に人が訪れています。奥能登へ世界から誘客したい」と話す。
さらに、世界のアーティストが珠洲市を舞台に作品を展示する「奥能登国際芸術祭」を「能登半島全体の芸術祭にしたい」と語る。
能登半島をパビリオンに見立てた「能登ふるさと博」は「国際ふるさと博に格上げしたい」と夢を描く。
地震で大きなダメージを受けた能登を活性化させるためには、様々な仕掛けが必要だ。「一つや二つではなく、どんどん提案していきます。ただ、個人では無理、市でも難しい。少なくとも県レベルで進めていく必要があります」と言う。
「苦しくても今から動かなければならない」
しかし、地震の被害はあまりに酷い。「とても観光という状態ではない」と話す人が多いのも事実だ。
それでも、「手をこまねいているわけにはいかない」と刀禰さんは力を込める。「『大変だ』と言っているだけではダメなのです。できることは職種によって違います。我々は観光。提案してすぐに進むものばかりではなく、準備に時間を要する場合もあります。だからこそ、苦しくても今から動かなければならないのです」。
「課題は足並み」と、刀禰さんは見ている。
「たくさんの人が傷ついたので、賛同してくれる人ばかりではないでしょう。被害の度合いも地区によって違います。最終的に奥能登全体で動けるようにならないと、よくはなりません。時間がかかるのです」と指摘する。
これら様々な課題に、どう折り合いをつけながら進めるのか。難局にも直面するだろう。
「その辺りが仕掛け人の宿命というか、責任でもありますね」。刀禰さんは顔を引き締めた。