地殻変動に絶景と伝説が重なりあっている奥能登
これら地震が引き起こした「変化」を見るにつけ、「まさにジオパークではないか」と刀禰さんは思った。
ジオパークとは、「地球や大地」を意味する接頭語「ジオ」と「公園(パーク)」をつなぎ合わせた造語だ。変動する地球や自然の中での人間の営みを教育や観光にいかす。ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が「ユネスコ世界ジオパーク」として48カ国で213地域を認定しており、そのうち10地域が日本国内にある。石川県内では「白山手取川」が2023年5月に認定された。霊峰・白山から日本海に流れ出す手取川をフィールドに、北陸の多雪地帯の成り立ちや水循環、そうした地帯での人々の暮らしを体験しながら学べるようになっている。
ジオパークを目指す場合、奥能登では「地殻変動に絶景と伝説が重なりあっているのがポイント」と刀禰さんは見ている。
その典型が獅子岩である。
嵐にあった船を助けた女神の「ハート」
こうした地点はいくつもある。例えば、金剛崎の高台から北に見下ろすと、岩場にハート型の水たまりができた。
「海が隆起して、ハート型に見えるようになったのです。刀禰家の先祖は北前船の運航に従事していました。新潟に向けて航行中のことです。嵐に遭ってマストの支柱が折れてしまいました。新潟に到着できなくなったばかりか、死ぬのを待つばかりでした。その時、海から女神が現れ、船に5回息を吹きかけると、元の港に戻って来たと伝えられています。その女神のハートが現れたのではないかと思いました」と、刀禰さんは語る。
海岸に下りたところにある洞窟には、長さ30mの渚ができた。被災前は海水に満ちていたが、隆起で干上がったのだった。
「これについても、刀禰家の言い伝えがあります。大昔に洞窟を訪れた仙人が『ここは将来、陸地になる』と予言したというのです。海底が隆起するような出来事が起きるかもしれないと、子孫に注意を促すための伝承だったのでしょうか」
全国の民話や伝承には教訓を物語にしたものがかなりある。奥能登でも多くの物語が伝えられてきたのだろう。