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夕陽に映える「ゴジラ岩」

「ゴジラも上陸しました」と、刀禰さんが言う。

 1954(昭和29)年に公開された映画『ゴジラ』は、戦後の水爆実験で目覚めた怪獣ゴジラが、東京・芝浦に上陸して街を破壊しまくる物語だ。

 その後、ゴジラに似た岩が全国で「発見」され、ゴジラ岩として親しまれた。能登半島にもそのうちの一つがある。刀禰さんの宿から20km弱の地点だ。岸からすぐ近くの海に立ち、夕陽に映えることから広く知られていた。

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ゴジラ岩。海底の隆起で“上陸"した=珠洲市馬緤(まつなぎ)町 ©︎葉上太郎

 今回の地震による隆起で、ゴジラ岩は陸上化した。「ゴジラ上陸」と報じたメディアもあったので、ご存じの人もいるだろう。震源に近い場所だけに、「ゴジラが上陸するほどの地震」という形で後世に伝えていけるのかもしれない。

 そうした絶景スポットと伝承を用いて、能登半島地震で何が起きたかを伝える。人々がそうした観光を求めていることは、この夏の来客で分かった。

例年の10分の1ぐらいにまで持ち直した観光客

 宿を長期休業せざるを得なくなった刀禰さんだが、高台の展望台や売店、海岸の洞窟への立ち入りはゴールデンウィーク前の2024年4月27日に再開した。

被災前の洞窟。海側の入口が浸されていた ©︎葉上太郎

 年間約20万人が訪れる観光施設だったのに、梅雨明け前は「100分の1以下になりました」と嘆いていた。ところが、夏休みになると例年の10分の1ぐらいにまで持ち直した。「海岸の隆起を見てみたいという人が多いようでした」。刀禰さんはジオパークへの手応えを感じた。

 既に県の最高幹部とは「これほどの被害なので、すぐにというわけにはいかないが、中長期的なテーマとしてジオパーク認定を考えていこう」と協議している。「担当の部長もつけてくれました」と語る。

 刀禰さんは「一枚の写真にひかれて世界から人が来る時代です。隆起海岸にどんな絶景があるか知らせていきたい」と意気込む。さらに、敷地内のこうしたスポットについては、それぞれテーマ曲を自作した。「音楽などのアートには言葉が要りません。様々な手段で発信していきたい」と話す。

粟津地区に舞うトキ

 他にも、国定公園に指定されている能登半島を、国立公園に格上げしたいと考えており、県と話を進めている。これに国の特別天然記念物・トキを絡められないかとも発案している。

 トキが日本で最後まで生息していたのは能登と佐渡だ。本州最後の個体は能登半島で捕獲された。佐渡の保護センターに移されて、人工繁殖が試みられたが、1971年に死亡した。同センターで飼育されていた日本固有のトキも2003年に絶滅してしまう。一方、中国から贈られたペアは人工繁殖に成功し、佐渡では野生復帰を果たした。石川県内でも珠洲市や白山市に飛来する姿が確認されている。