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田中さんから聞くアカネさんの言動から判断する限り、独立心が強く、誰かに、とくに男性に依存することをよしとしない、さっぱりした性格のように思える。憧れる人も多かった「オンリー」が嫌だという主張からは、米兵との関係をあくまで金銭を稼ぐ手段としてとらえ、一定の距離を置き、自分のコントロールできる範囲で商売をしたい、という強い意志が感じられる。

自分の人生をコントロールしようとし、2022年でも健在だった

アカネさんは、いつまで娼婦をしていたのか。はっきりは言わなかったが、「当時のパンパンの平均は22歳ぐらいで、28歳になると仲間からも面と向かって『ババアパン助』と呼ばれてたね。私は相当のババアまでやってたということになる」と話していたという。少なくとも、30歳ぐらいまでは続けていたのかもしれない。

ただ、それ以降、アカネさんが何をしていたのか、家族はいるのか、今何をしているのか、などの話は一切出なかった。

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田中さんと3回思い出話をした後、2022年10月頃からアカネさんは温泉施設に姿を現さなくなった。アカネさんと以前そこで談笑していた女性たちに聞いてみても、顔を合わせたら話す程度で、連絡先や住所を知っている人はいなかったという。「体調を崩して亡くなった」と言う人もいたが、それも正しいかどうかわからない。

田中さんは「どうもあのあたりに住んでいるらしい」という情報を基に、施設の近隣の自治体まで探しにいったが、手がかりはつかめなかった。

「過去を知られたから、これ以上詮索されるのが嫌で、顔を出さなくなったのかもしれない」

田中さんは今、アカネさんの心境をそう推測している。

アカネさんは今も元気であれば、90歳手前。女性の平均寿命を考えれば、先述した、連絡先を言わずに去った女性やアカネさんのように、娼婦の過去を持ちながら、周囲に明かすことなくひっそり暮らす人は他にもいるのかもしれない。

【参考記事】毎日新聞 「パンパン」から考える占領下の性暴力と差別 戦後75年、今も変わらぬ社会

牧野 宏美(まきの・ひろみ)
毎日新聞記者
2001年、毎日新聞に入社。広島支局、社会部などを経て現在はデジタル編集本部デジタル報道部長。広島支局時代から、原爆被爆者の方たちからの証言など太平洋戦争に関する取材を続けるほか、社会部では事件や裁判の取材にも携わった。毎日新聞取材班としての共著に『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃をふるうのか』(2020年、毎日新聞出版)がある。