部屋の中は想像を絶する光景が…
その日は、すっかり日が暮れてしまったこともあり、翌朝、再びマンションの掃除に訪れることにした。
――おーちゃんと連絡もつかないし、もしかしたら部屋の中で倒れているかもしれない。
そう感じた香織と両親は、翌日の6月18日の午前中には、最寄りの派出所へ相談に行った。警察官に事情を説明すると、緊急を要する事態かもしれないとのことで、昼過ぎには、刑事課所属の男性警察官2名と、管理会社の社員がマンションにやってきて、一家と合流した。
管理会社の社員が、警察官に鍵を渡す。管理会社によると、このタールのような液体はゴールデンウイーク頃から、徐々に漏れ出ていたという。見かねた近所の住人が管理会社に相談したが、物件の契約者の携帯に何度電話しても連絡がつかないので、やむなく保証人である清の自宅に連絡したとのことだった。
警察官は、鍵穴に合い鍵を差し入れて回して開けようとした。しかし、ドアノブの鍵は回らず、びくともしない。何か得体のしれない凄まじい力が向こうから押し返しているようだった。
なぜ、鍵が回らないのか、一同は首をかしげずにはいられなかった。そこでベランダ側のガラス窓に目をやると、ストライプ柄のカーテンが内側にある何らかの物体で圧迫され、ガラス窓の上部にまでベタリと張りついているのがわかった。恰幅の良い警察官は、何かにピンときた様子で、「こりゃ相当溜まってるなぁ」とつぶやいた。
警察官が「いっせーのせ」と全体重をかけながらドアを押し、何度も鍵穴を回した。
すると「ガチャガチャ」という音がして、ようやくドアが開いた。そこには、想像を絶する光景が広がっていた――。
大人の胸のあたりまで積もっていたのは、カラフルなゴミの山だった。
ゴミは警察官がドアを開けた瞬間、ダムが決壊したかのように、暴力的に崩れかかってきた。それは、まさに怪物が不意の侵入者に対して、襲いかかる姿そのもののようであった。
母の和子は、後ろの方でその様子を窺っていたが、ドアの向こう側の光景を見るなり、あまりのショックでクラクラと一瞬、意識が遠のくのがわかった。膝がガクガクとして、体中の震えが止まらない。腰が抜けてしまい、思わずその場にへたり込んでしまった。
――明美、ほんとうに、毎日ここに帰ってきて、寝てたのかしら。お母さん、どうしてもっと早く気がついてあげられなかったんだろう。ごめんね、ごめんね、ごめんね。
心の中ではそう思ったが、それは発話されることはなく、うぅーという声しか出なかった。
和子はこの瞬間に、これまで色彩のあった世界が、突然プッツリと色がなくなり、視界がグレーに変化したのを感じた。この日の記憶は途切れ途切れで、断片的にしか覚えていない。
それほどまでに、目の前に広がる光景は、和子には受け入れがたいものだった。
香織はそんな母の様子を目の当たりにして、これ以上は見せられないと思い、「お母さんを車に連れて行って!」と清の腕を掴んだが、清もまるで人形のように呆然とその場に立ち尽くし、香織の声など聞こえていないかのようだった。