スタッフの中にはストレスで寝込む人もいました。当時は通信アプリが普及する以前だったこともあり、チーム崩壊の原因となったA氏の言動について、証拠となる記録は残っておらず、結局、A氏は一言の謝罪もしませんでした。むしろ、自分がもたらした事態について、「そんなに深刻に考えなくてもいいじゃないか」と、どこか茶化すような発言さえしていました。
ここで注目すべき点は、第三者に提示できる証拠がない状況では、問題を起こした人物が何1つ償いをせずに逃亡したとしても、当人が罪悪感を持たずに開き直れば、その人物は何の不都合もなく普通の生活を続けていけるという現実です。
通常、私たちは、自分が日頃関わる普通の人たちはみな罪悪感をもっており、簡単には悪事をできないだろうと考えています。サイコパスは、そうした常識を覆す存在です。
「犯罪者になる人」と「社会的成功をおさめる人」の違い
サイコパスには、良心や共感性の欠如に加えて、恐怖心の欠如という特徴があります。サイコパスというと、冷酷な利己主義者で、自分の利益のためならば平気で他人を傷つけるというイメージがあります。こうした性質は共感性の欠如と関係しています。
その一方で、恐怖心の欠如は、大胆さや行動力につながります。それが悪い方向に現れると犯罪者になります。処罰されることに対する恐怖心がないためです。逆に大きな社会的成功につながることもあります。失敗を恐れずに挑戦を繰り返すからです。
世間一般のイメージそのままに犯罪者になる人と逆に社会的成功をおさめる人、同じサイコパスでもどこが違うのでしょう?
経営者、医師、弁護士などにサイコパスが少なからず含まれていると言われています。このような成功するサイコパスは自分の行動を適切にコントロールする調整能力が高いと考えられます。
他者と良好な関係を築くことが自分の利益になる状況においては、共感性や良心からではなく、損得勘定の結果として、表面上好意的に振る舞うことは合理的です。調整能力の高いサイコパスにはそれができます。
サイコパスと思われる成功者の例として、マザー・テレサとスティーブ・ジョブズが挙げられます(※注:中野信子 2016年『サイコパス』文春新書)。ノーベル平和賞受賞者であるマザー・テレサは、聖人という一般的イメージとは裏腹に、身近にいる子どもや側近に対しては非常に冷淡で、愛着を示さない人だったそうです。
Appleを創業したジョブズはその高いプレゼン能力で有名ですが、たとえ社員や家族が相手の場合でも、追い詰め方は容赦がなかったと言われています。