人間は、身体だけでなく、「心」も長い年月をかけて進化を遂げてきた。しかし、「うつ」や「陰謀論」など、人間の心のネガティブな性質は、進化の過程で淘汰されることなく、今現在も私たちを苦しめている。人間の“心のダークサイド”はどのように私たちに影響を及ぼしているのだろうか?

 ここでは、生物学研究者の小松正氏が、進化心理学の観点から人間の“心のダークサイド”について綴った『なぜヒトは心を病むようになったのか?』(文春新書)より一部を抜粋。近年注目を集めるようになった「サイコパス」とは、どのような人を指す言葉なのだろうか?(全2回の1回目/2回目に続く)

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冷酷で良心・共感性・罪悪感が欠如しているのが特徴

 日頃は好人物のように見えても、いざというときに冷酷な本性が現れる。場合によっては法を犯すことも厭わない。その被害をこうむる立場からすれば、非常に恐ろしい存在でしょう。近年、こうした反社会的人格の持ち主はサイコパスと呼ばれ、注目を集めています。

 よく知られているサイコパスの特徴は冷酷であること、良心・共感性・罪悪感が欠如していることです。サイコパスは人口の1%程度存在していると言われており、サイコパスまたはそうした傾向のある人物と関わった経験を持つ人は少なくないと思われます。

※写真はイメージ ©yamasan/イメージマート

 私自身もかつて、サイコパス傾向の強い人物と関わったことがありました。私がアドバイザーを務めていた環境系市民団体のスタッフだったA氏は社交的で話も面白く、一見魅力的に見える人物でした。

 しかし、A氏をリーダーとしたチームでシンポジウムを企画したものの、開催中止となるトラブルがありました。A氏の自分勝手な言動によりチームが崩壊したためです。ほどなくして遠方に転居予定であったA氏は、実情を知る人たちと関係を断ち切り、経費などの金銭面の負担や関係各位への謝罪などの対応をすべて他のスタッフに押し付け、知らぬ存ぜぬを決め込むという開き直った行動に出ました。