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それほどのケガをしても、医師が乗船しているわけではないから応急処置しかできない。サメやカジキにやられたり、釣り針でケガをしたら、近くの港に行くまでの数日間、薬を塗り、包帯を巻いて船室で寝ているしかない。

しかし、それだけの危険があっても漁師は延縄漁に出ていく。マグロは高価だからだ。体重200キロのクロマグロであれば1匹、数百万円はするものもある。しかも、「一本釣り」と「延縄」で獲れたマグロは巻き網で獲ったものよりも1キロあたりの価格が2倍から3倍になる。

ラインホーラーを発明した泉井安吉は延縄船に乗り組んでいたから、船の上での作業と生活をよく知っていた。安吉は漁師たちのためにラインホーラーを作った。自分の利益のためではなくマグロを揚げる仲間たちのために作ったから、日本と世界のマグロ漁師が支持したのである。

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※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。

野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。