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さて、泉井安吉が創業した泉井鐵工所の本社、工場は市内の中心部にある。社長はひ孫の北村和之、和之の叔父で相談役をやっているのが泉井安久だ。

ふたりは延縄漁とラインホーラーについて教えてくれた。

北村は言った。

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「延縄漁は幹縄(みきなわ)に枝縄(えだなわ)を垂らして行います。枝縄の先には釣り針がついています。船が幹縄を繰り出していって、釣り針についた餌を食べたマグロがかかる。引き揚げるときに昔は縄を漁師が手で引いていました。危険です。足に縄がからまったら、そのまま海に引きずり込まれたりします。マグロの延縄漁は事故が多かったので、昔は延縄船のことを『後家縄』船と言いました。後家とは夫を亡くした女性のこと。漁に出たら必ずひとりかふたりは事故に遭う……」

相談役の安久が後を引き取った。

「幹縄の長さは遠洋なら150キロメートルはあります。室戸岬から足摺岬ぐらいまでが150キロメートルだから、それくらいの長さに3000本の枝縄をつけます。幹縄はある程度の長さが出たら、縄の端にラジオブイをつけた浮き玉を仕掛けます。そして、船から切り離す。船はラジオブイを置いた場所を記録しておいて、そこにまた戻って縄を揚げる。これが揚げ縄の作業。縄を投げ入れる(投縄)のに5時間、縄を揚げる(揚げ縄)のが12時間。

幹縄は直径約4ミリのテグスで、枝縄はナイロンテグス製。テグスとは釣り糸のことですね。幹縄はテグスになる前は合成繊維のクレモナ縄でした。餌はイワシ、イカ、ムロアジ、サバ。冷凍の安い魚を使います。

遠洋の大型船には二十数人が乗り込みます。太平洋からインド洋や大西洋にまで行ってマグロを獲って船内で冷凍保存する。近海の場合は冷凍ではなく、冷海水で船腹に保存します。保存するときはえら、わた(内臓)は抜きます。漁師は大変ですよ。投縄、揚げ縄といった漁のほか、甲板に引き揚げた100キロもあるマグロの解体まで行うわけですから」