1ページ目から読む
5/5ページ目

「記者さんの前で言うのもおかしな話だけど…」

 私が何をどこから語れば、と逡巡していると、隣に座った東出さんが、「記者さんの前で言うのもおかしな話だけど」と前置きして、SNS社会とメディアの関係を解説し始める。

「週刊誌やウェブメディアにも問題はあるが、僕の再婚の記事が大衆にこんなにも読まれること自体、不気味に思う。メディアは大衆が求めている以上、書かないわけにはいかない」

©︎文藝春秋/釜谷洋史

 そんなことを言っていた気がする。それが、東出さん自身が大衆の興味の対象となり、バッシングを受け、記者から幾度もの「直撃」を受けるという壮絶な経験をした中で獲得した言葉なのだと思うと、複雑な気持ちになる。今思えば、週刊誌に「人生ぶっ壊された」張本人と、その雑誌の記者が並んでそういうテーマについて語ること自体が不思議な光景だったと思う。

ADVERTISEMENT

 しかし明日になれば、私は東出さんに聞かれたくないであろうことも聞かなきゃいけない。東出さんも明日には私に聞かれたくないことを聞かれんだろうなと分かっている。でもその瞬間だけは、そんなことは忘れていたかった。

「あの記者さんのことは信頼できるから」

 宴もたけなわで解散となり、「明日はよろしくお願いします」と東出さんを見送った後、一緒に焚き火を囲んでいた地元の方が声を掛けてくれた。

「さっき彼と話してて、『文春の取材を受けるんだ』って言うから、僕ら『大丈夫なの?』って言ったんですよ。でも、彼は『あの記者さんのことは信頼できるから』って。あなたがいないところでそう言うってことは、本当に信頼してるんだね」

©︎文藝春秋/釜谷洋史

 正直に言うと、私は東出さんをそこまで信頼してはいなかったと思う。こんな状況だし、媒体が媒体だから、当日になってキャンセルもあり得ると思っていた。待ち合わせの駅に向かう列車の中、ビル群から田園風景へとあっという間に変わっていく窓の外を眺めながら、「そうなっても押しかけるしかないか」とか「まあページ落としても死人は(多分)出ないし」とか、そんなことをぼんやり考えていた。そんな自分を恥じながら、「なんで東出さんは私を信頼できるのだろう」「なぜここまでしてくれるんだろう」と考えるうちに、眠りに落ちていた。