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昨年の取材で見た東出さんの表情

 なだらかに広がる広葉樹林の鮮やかな緑に囲まれた山の中で対談の収録を終えた私たちは、米田さんの案内の元、野生のツキノワグマが降りてくるという大豆畑に向かった。

「いつもはもっとゴロゴロいるんだけどよ」と言いながら米田さんが、指さす方を見ると、青々とした畑の中に黒い塊がポツン、ポツンとあるのが見える。野生のツキノワグマだった。

 写真週刊誌にいた頃、張り込み用にと先輩カメラマンから譲ってもらった(正確には買わされた)単眼鏡を覗き込む。ぼんやりした視界の中で、黒い塊がもぞもぞと動いているのがわかるが、肉眼で見る美しさには敵わない。生命力あふれるその姿に興奮する私の横で、「野生動物は、本当に美しいんです」と、嬉しそうに頷く東出さんの横顔が印象的だった。

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2023年の取材にて。東出さんと米田一彦さん ©文藝春秋/撮影・杉山秀樹

別れ際の「いつか」から一年、お互いの状況の変化

 そうやって同じ景色を共有したからだろうか。取材を終えて帰りの新幹線を待つ頃にはお互いなんとなく打ち解けて、遅めの昼食を食べながら「なんで記者になったんですか?」とか「あれ、タメなんだ!」みたいな話をした。「土地の酒蔵に足を運ぶのが好きなんです」という東出さんと、酒蔵を訪れたりもした。Googleで「〇〇駅周辺 酒蔵」と調べる私を横目に、「スミマセーン」と胴長姿の地元の方に自然と声を掛けて道を尋ね、「今の時期は鮎ですか」など話す東出さんを見て、ああこうやって山での暮らしに溶け込んでいったのだなと妙に納得した。

 東京へ戻り、別れ際に「また何かやりたいですね、山へ遊びに行かせてください」とは言ったものの、当時私は産後数カ月。子どもを置いて山に行くのも、連れていくのも現実的ではなく、「いつか」と思ううちに1年が経ってしまった。

 その間に、東出さんはYouTubeチャンネルや『SPA!』のエッセイ連載で、山暮らしの発信をするようになっていた。東出さんの周りには1年前とは比べ物にならないくらい多くの人が集まっているし、俳優業も猟師としての活動も忙しくなっているようだった。

©︎文藝春秋/釜谷洋史

 一方、私が置かれた状況もこの1年でだいぶ変化していた。「文春オンライン」のニュース班と「週刊文春」編集部が一緒に記事を作ることになったため、私は「週刊文春」に移籍。「週刊文春記者」として毎週取材と記事の執筆に追われる日々となった。世間からの週刊誌記者に対する風当たりは強く、ふと息苦しさを感じることもあった。