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「用を足すときは、ショベルで穴掘って、そこにしてください」

「僕がここで獲物を捌くとき、端肉をそこらへんに捨てるから、そこに蠅が集まって、その蠅を狙ってオニヤンマが来るんです」と、東出さんは虫取り網を構えながらそう言う。この小屋の周りに形作られた生態系のほんの一部を垣間見た気がした。

「取材は明日の午前中。今日は家族の時間を」ということになり、アイスコーヒーをご馳走になりながら(水が綺麗だからか、これが本当に美味いのだ)一息ついた後は別行動。「用を足すときは、ショベルで穴掘って、そこにしてください。紙は燃やすから置いといてください」。「キャンプ場のWi-Fiのつなぎ方、教えますね、めちゃくちゃ不安定だけど(笑)」と、一通りレクチャーを受けて別れると、家族で周辺を散策した。電波も繋がらず、Wi-Fiは不安定どころか何度やっても微弱で編集部とも連絡が取りづらいが、仕方ない。

©︎文藝春秋/釜谷洋史

「魚を獲る」と言ってきかない子供と、川の冷たい水に足を浸しながら、ただただ木や石ころを眺める。シンプルな景色なのに、落ち葉の間にある枯れ枝と思ったものがナナフシだったりして、意外と飽きなくて、あっという間に星がちらつき始めた。

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「鹿シチュー作って来たんで、食べましょう」

 キャンプ場にやってきた東出さんは、鍋を掲げながらそう言う。手際よく焚き火を起こすと、オクラや猪鹿ソーセージを焼いてくれる。猪鹿ソーセージは豚のソーセージよりも弾力があり、赤身の旨味が凝縮した感じ。東出さんの鹿シチューは野性味のある鹿肉がハーブと共に柔らかく煮込まれていて、ビーフシチューとはまた違った美味しさだ。子供も気に入ってパンをスープに浸してパクパク食べる。

©文藝春秋/釜谷洋史

“東出再婚”の記事が氾濫していることについて

 子供たちを寝かしつけたら、赤ワインで乾杯。お酒が入ると、互いにちょっと饒舌になり、ここでの生活のこと、狩りのこと、先輩猟師のことを聞いた。私も聞かれたわけでもないのに、東京での生活や、仕事のことを取り留めなく話していた。東出さんは薪を割りつつ、うんうんとそれを聞いてくれる。この人には何でも話して大丈夫、という安心感があった。

 途中、東出さんがふらーと席を外したと思ったら、私たちと同じようにキャンプ場でBBQをしていた3人のお客さんを連れて戻って来た。そのうちの一人はキャンプ場のオーナーの息子さんで東出さんとは顔なじみとのこと。そうしてほとんどが「はじめまして」の6人で焚き火を囲む。

 こういう時は普通、芸能人である東出さんに注目が集まるものだが、東出さんに慣れてしまっている地元の方の興味の対象は「文春記者」の私で、質問攻めにあってしまう。その頃にはすでに3リットルあったワインを飲みほしていたので記憶は怪しいが、今“東出再婚”の記事が氾濫していることについて、「なんでこういうことが起こっているのか」とか、そういう話になったのだと思う。東出さんを知る人からしたら、間違った情報ばかり書かれているのだと。