(全3回の3回目/#1#2を読む)

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「はい、鹿サンド、食べてください」

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 なんか肉を捌いてるな、味付けしてるな、焼いてるなとは思っていたが、気づけば熱々のおいしそうな鹿サンドが目の前にあった。鹿のもも肉を薄く切りソテーしたものが食パンに挟まっている。

©文藝春秋/釜谷洋史

 その野性味あふれる香ばしい匂いに引き寄せられたのか、東出さんの家にはどこからともなく「近所のおっちゃんたち」が集まっていた。近隣住民の大村さんも鹿サンドを頬張り、「でっくん、これ美味いよ、600円で売れるって!」と声を上げる。東出さんの自宅の持ち主という義守さんも、「でっくんが作ると、美味いんだ」と笑う。私も我慢できず、取材を中断して鹿サンドにかぶりつく。旨味がじゅわっと口に広がる。肉は柔らかく、クセもない。昨夜のシチューも美味しかったが、こちらも絶品だった。

「でっくんはここらの専属コックだから」という義守さんの言葉に大いに頷きつつ、この3年で東出さんが築き上げた人間関係について思いを巡らす。

何かを決めているわけじゃない

――自然と皆さんが集まってきて、賑やかですね。後輩女優(さいとうなり、烏森まど)さんがこちらに移住したことも含め、ここに「東出村」、「東出共同体」ができているみたいに、書かれることもあります。

「でも、助け合おうとか集まろうとか、決めているわけじゃないんです。何かを決めすぎると気持ち悪い共同体になると僕は思っていて。後輩たちの予定なんかも、僕は全然、把握していないんです。地元のおっちゃんたちの方が、把握してるくらい(笑)。おっちゃんたちはその子達の家に行って、『おいちょっと何々手伝うだ』って直にスカウトしてるみたいで。彼女たちが僕の家に来るときは、大体、おっちゃんの軽トラの助手席に乗っけられてる(笑)」

©文藝春秋/釜谷洋史

――妻の花林さんも、今は果実の収穫などを手伝っていると話していましたね。

「そうです」

――花林さんも狩猟免許を持っていますが、一緒に狩りに行くことは?

「あります。あるけど、ほとんどないですね。最初の頃は、自分も教えるってほどではないんですが、『僕の狩猟スタイルの単独忍びのような歩き方では、こういうところはつま先立ちで歩くんだよ』『こういう木の枝は踏まない方がいいよ』とレクチャーしました。でも、ある程度山を歩けるようになったら別々で行った方が獲れる可能性が高いので」