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 気づけば青空の下のインタビューは2時間を超えていた。「午後から雨」の予報とは裏腹に空は晴れ渡り、時々心地よい風が吹く。焚き火の始末をしながら、「そういえば」と、東出さんが思い出したように言った。

米田さんとのクマ対談の時に、『奥山放獣をしたいなら、麻酔銃を扱う資格を取った方がいいよ』と言われたじゃないですか。実はそれをうちの猟友会の支部長が取って。今度、僕も取ります。だから、奥山放獣できるようになりますよ」

 奥山放獣とは、ツキノワグマが個体数を減らし絶滅の危機に瀕していた頃、NPO法人日本ツキノワグマ研究所理事長の米田一彦さんが行っていた、人里に降りてきたクマを殺処分するのではなく、麻酔で眠らせて山奥に返すという保護活動だ。

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2023年の取材にて。語り合う米田さんと東出さん ©文藝春秋/撮影・杉山秀樹

「このあたりでも、最近よくクマが人里に降りてくるんです。でも、猟友会のおっちゃんたちも言っているのですが、クマの頭数自体は減っていると思う。山奥に食べ物がないんです」

 東出さんはあの対談で得たものを、ここでの暮らしで生かそうとしていた。それがなんだか嬉しい。

「どんな家庭を築いていきたい?」と尋ねると…

 最後に「ここでどんな家庭を築いていきたいですか」と東出さんに尋ねると、笑顔でこう答えた。

「目標とすることはいっぱいあるけれど、それに縛られて、ストレスを抱え、喧嘩するようなことはしたくない。あとは、僕はすぐ調子にのるので(笑)。自分が間違ってるという前提のもと、人々に教えを請いながら日々を過ごしていきたいなと思っています」

©︎文藝春秋/釜谷洋史

 インタビューを終え、キャンプ場の子供たちと合流すると、上の子どもが泣き叫んでいた。ママがいなくて寂しかったかと思って近づくと、「帰りたくない! 帰りたくない!」と喚いている。そんな子供を、東出さんはそうか、そうか~と抱きしめる。

「またおいで。今度来たら山を案内するね。こーーーんなに大きいイノシシがいるから!」

 そう言う瞳は子供のように輝いている。近所のおっちゃんたちも、「ほら、魚、見に行こう」「ジュース買ってやる。リンゴがいいか?」「ブドウ持って帰れ。ここではブドウはもらうもんなんだ」「また来るだ」と、総出で子供をあやしてくれる。なるほど、きっとこんな感じで後輩の方々も心を掴まれたのだなと感心しながら、私も次の休みの予定は……と頭の中でカレンダーをめくっていた。