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原田 そうですね。撮影では、まず増村さんがワンカットごとに動きをやって見せてくれました。ここからこういうふうに歩いてきてこの木を掴んでここで台詞ひとつ言って、こう回ってここで台詞ひとつ言って、と。それを真似するわけですけど、ワンカットにつき30回くらいテストがあるんですよ。その頃はフィルムですから、もったいないから本番の1回しかカメラを回さないんです。その1回のために何十回もテストをやるんですけど、若いので途中で飽きちゃったりするんです(笑)。どうせやってもカメラは回さないんだろうと思うじゃないですか。それでちょっと気を抜くと、またテストが増える。そして毎回、増村さんは「もっと激しく、もっと悲しく、もっと強く」って必ず言うんです。

提供:一般社団法人PFF

鶴岡 おりんはずっと怒っているし、すぐ喧嘩しますよね。

原田 すごいパワーでやらないといけないので、必死でした。

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鶴岡 『大地の子守歌』はお芝居とカメラワークが見事に連動しているのもすごいと思いました。

『大地の子守歌』 ©KADOKAWA1976

原田 増村さんは溝口健二さんの弟子でした。といっても私は当時16歳で、溝口さんがどういう人かよく知らなかった。撮影の合間に増村さんがスタッフに、溝口さんについていろいろな話をしてくれたんです。例えば「溝口さんは役者の芝居が100まで上がった時に撮っちゃだめだと言っていた。100まで上がって80に落ちたときにシュート(撮影)するのがいちばんいいんだよって言ってたよ」。それを私もなんとなく聞いていて覚えている。その時は意味はよく分からなかったんですけど、100まで役者が上がっているときにシュートしちゃうと、つないだときにたぶん「多い」んだと思うんです。ふっと体の力が抜けた状態で80まで落ちたときに撮るのがいい、だけど最初の80のときに撮っちゃだめなんです。上げといてから落とすと、アクがとれる……みたいなことなのかなというのは、後に分かったんですけど。

 カメラワークと芝居が合っているというのは、それだけのリハーサルを通すことによって、役者もカメラも録音部も照明も、本番に向かって全員が段階を踏んでいちばんいいところで撮る。昔はみんなそういう撮り方でしたけど、誰も失敗を許されない。でもそれで芝居も凝縮されていって、結晶みたいなものになるんです。