1ページ目から読む
4/4ページ目

「センス」をともに磨く仲間を作る

 東畑 同好の士といいますか、「センス」を磨くという共通の目的を持って高め合える仲間を作るのも、いい方法ではないかと思いました。なぜ、そう思ったかというと、臨床の「センス」というのも、「リズム」を受け取る構えみたいなものによって作られるわけなのですが、これはやはり一人で習得するというより、コミュニティが必要だった気がするからです。

 臨床心理の現場では、絵を描く心理検査があるんです。たとえば、木を描く。最初は意味に囚われるんですね。木の幹が太いから自我が強いのではないかとか、葉っぱが多いのは、対人関係が多くて社交的であることを示しているのではないか、みたいに解釈本に書いてあるような一対一対応で考えている。でも、本当はリズムを感じるのが大事なんですよね。「これはなんだか気持ち悪い木だな」とか「立派な木だな」という直観的な判断ができるようになると心を受け取れるようになる。そのために先輩とか仲間とかと同じ絵を見ての感想を言い合って、感性を真似ていくプロセスがあるんですね。

 絵の「リズム」を感受できる能力が高まってくると、今度はクライエントと話しただけでも、その人が話している内容だけではなく、その人の話し方や雰囲気が持つ「リズム」も感受できるようになってきます。そういうのが心を理解することなのだとわかってくる。

ADVERTISEMENT

 千葉 そういう「センス」を身につけるための技術って、なかなか本に書かれていないんですよね。

『センスの哲学』

 千葉 『センスの哲学』の表紙にロバート・ラウシェンバーグの抽象絵画を使って、中でも解説していますが、この絵って、別にメッセージとかはないわけです。ただ、色と形をあるセンスで配置していっただけの作品だと言っていいでしょうね。そのような見方があるということが、あまりに知られていない。絵である以上、何かを伝えようとしているはずだ、という「意味」偏重の見方が強くて、ただ何となくいい感じの絵というものが、それだけで価値を持つとは思っていない人が多い。そういうことを知ってもらおうと思って、この本を書いたところもあります。