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規格外の「お見舞い」

 裕次郎の入院期間中は約4か月、129日に及んだ。そしてその間、病院には数多くの見舞客が訪れ、ファンからの応援の手紙や電話も、ひっきりなしに届いたという。 

 見舞客延べ1万3000人、手紙7500通、千羽鶴2180連――。病院の駐車場にとめられた石原プロのバスの車体には、ファンからの応援メッセージが油性ペンでぎっしりと書かれた。

 余談ではあるが、石原裕次郎が手術を受けた後「ポカリスエットが飲みたい」と筆談で懇願し、兄の慎太郎が記者たちにそれを話したことで、その日からポカリスエットの売上が急増した、という逸話もある。

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 すべてが規格外。日本中の祈りがエネルギーと化し、裕次郎に集められ、彼もその力を借りるように回復していき、6月30日には、特別個室から一般病室に移った。

 現代では考えられないことであるが、マスコミは入院中も彼を追いかけた。フジテレビのワイドショー「3時のあなた」は、屋上にて日光浴をする裕次郎にインタビューを敢行している。

 世間はこの奇跡の生還の報道を通し、テレビドラマで彼が演じる、絶対なる「ボス」のイメージと重ね、応援する。そして、その思いに石原裕次郎自身も応えようとし、彼の入院そのものが、一つのコンテンツとなっていた。

 そして9月1日、ついに退院。

「人さまから今回のことでも『強運な男』と言われる私です。私自身はその逆で、なんでこのように周期的につまらない病気にかかるのかと、不運に舌打ちしたくなる思いにかられます」

 石原裕次郎が記者会見で語ったこの言葉通り、彼は昭和という時代において、誰よりも強く、誰よりも強運であった。が、同時に、常に病やケガと戦う壮絶な人生でもあった。