どうして「ためしに住んでみる」にここまでこだわるのか?
実際、高島市では2023年度に13組25名が「おためし暮らし」を利用し、そのうち2組が移住している。また、柳田さんのように入口が移住目的ではなくても、実際に暮らしてみることで地域の人たちとの関係を築くことができ、移住の検討に進むケースもある。今後、「おためし暮らし」の利用者が増えていけば、その分だけ移住者を増やすことにもつながるという期待があるのだ。
ただ、ここで気になるのは、JR西日本にとってのメリットはどこにあるのか、ということだ。自治体から運営費をもらっているとはいっても、通勤費の4割をJR西日本が補助している。だから、半ば持ち出しに近いといっていい。地域との関係強化という目的はあっても、ビジネスとしてどれだけ成立しているのだろうか。
「『おためし暮らし』は、観光客のような交流人口と実際に住んでいる定住人口の中間のような、いわば関係人口の創出を目的としたプロジェクトなんです。他にも、ワーケーションや第2のふるさとづくりといった取り組みをしていて、そのひとつが『おためし暮らし』。コロナ禍で鉄道利用が減少したことを受けて、中長期的な鉄道需要の創出につなげるべく進めてきました」(中西さん)
「おためし暮らし」から実際の移住につながれば、そこに移動が生まれ、人が動けば鉄道利用者も増える、というのが将来的なビジョン。すぐに目に見えるような大きな結果がもたらされるとは考えにくい。
もちろん、それも承知の上。関係人口の創出、そして地域活性化につなげてゆくことが、いずれは鉄道利用者の確保に結びつく、というわけだ。
「おためし暮らし」はスタートして今年で4年目。初年度は知名度が低く、11組の利用に留まった。しかし、今年度は半期で50組ほど応募があるという。さらに今後は連携先の自治体を増やし、提供できる住居の選択肢を増やすことで、利用の増加につなげていきたいと考えている。
「現時点でも順調だとは思っていますが、年間50組、4自治体では規模としてはまだまだ小さい。10自治体、20自治体と増やしていって、スケールアップしていきたいですね」(中西さん)
どんどん移住者を増やして人の移動も活発になって、人口が増えていって、鉄道も利用者が増えて……などという好循環。そんな理想が手っ取り早く実現するならば、誰も苦労はしていない。
「おためし暮らし」のような、一見すると効果バツグンとは言えなさそうな取り組みでも、地道に続けていって関係人口をひとりでもふたりでも増やすこと。時間はかかっても、もしかするとそれが最短の道、そして最後の希望なのかもしれない。
写真=鼠入昌史