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ジャーナリズムとは報じられたくないことを報じること

――ユニクロに関するノンフィクションで対照的なのが、日経新聞編集委員の杉本貴司さんが書いた『ユニクロ』(2024年)です。

横田 杉本さんの本には「割愛」という言葉が2回出てきます。1つ目は、中国の工場や日本の店舗での労働問題については僕の著書に書いてあるので「割愛する」。2つ目は、それを出版した文藝春秋に対してユニクロが「虚偽の報道は看過できない」と訴訟を起こすが「裁判の詳細はここでは割愛する」。最高裁で文藝春秋が勝つんだけれども、この本にはユニクロの主張だけ書いて、裁判の判決については書いていない。

 読者は普通、その裁判はどうなったのか、気になるじゃないですか。敗訴したことについて柳井はどう思っているのか、当然書かれていない。この本は読者のほうを向いているのか、ユニクロのほうを向いているのか、どっちなんだということです。

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「一九八四年」の作家、ジョージ・オーウェルの言葉に「ジャーナリズムとは報じられたくないことを報じることだ。それ以外は広報だ」というのがある。これを今回の『潜入取材、全手法』で紹介しました。口幅ったいことを言うようだけれども、柳井正に限らず、大企業の経営者というのは、権力者です。それをチェックする機能は必要だと思う。それがないとやりたい放題ですもん。

 

「守秘義務絶対主義」ユニクロ

――『潜入取材、全手法』を読むと、潜入ルポとは、物ごとを立体的に書くための手法であり、口を閉じる企業に口を開かせるための手法だとわかります。それにしてもユニクロは手強い。

横田 柳井正は自分の都合の悪いことには口を閉ざし、働いている人たちの口も閉じさせます。くわえて、メディアやジャーナリストの口を訴訟で封じようとする。ユニクロについて、なにか書こうとしたら裁判をちらつかせて封じる時期が一時期、確かにあったわけです。彼は情報も自分のものだと思っている。だからジャーナリストはきちんと見ていないと駄目ですよ。