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――今回の本のなかでは、なんでもかんでも営業秘密だと言うユニクロのことを「守秘義務絶対主義」と評しています。

横田 店舗の朝礼でも「今の話は機密情報です。守秘義務にあたります」などと言っては、なんでもかんでも守秘義務扱いだとバイトの人たちに思い込ませる。そうすると大学生なんかは信じるじゃないですか。それで「もしも義務に違反してしまったら就職に響くんじゃないか」などと思ってしまう。

 ある大学で特別講義をしたときのことですが、講義の後に、女子学生が僕のところにきて「いま、ユニクロでアルバイトしているんです」と言うので、どこの店舗で働いているんですかって聞いたら「それはいえません」。バイト先の店舗名さえ、機密情報だと思い込んでいるわけです。

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 こんな話もあります。「街録ch」というYouTube番組に出たとき、今までに潜入したアマゾンやヤマト運輸、ユニクロの話をしたんですよ。面白かったのがコメント欄。そこには「アマゾンでこんな酷い目に遭いました」とか、いっぱい書き込みがされるんです。けれども僕の見た限りでは、ユニクロについてのものは全然出てこない。

 それくらい、ユニクロで働いている人たちは、会社を恐れている。それでも週刊文春でユニクロの連載をしていたときは、情報提供が次々と来ました。大学生から「アルバイトを始めたら卒業するまで辞めちゃ駄目だと言われた」とかね。

潜入取材が顔見知りにバレそうになって…

――同じ潜入取材するにしてもアマゾンの倉庫などと違って、ユニクロの店だと顔見知りに遭ったりしそうだけれども、そうした経験は? 

横田 自宅の近くの店舗で働いているときに、息子の友達のお母さんが来たことがありましたね。ユニクロに潜入するためにわざわざ離婚して名字を「田中」にして働いていましたから、「あら、横田さん」なんて呼ばれたら大変です。

 そのとき僕はレジを打っていました。店にはレジが7台くらいあるのですが、そのお母さんが並んでいるのが見えて、向こうは僕のことに気づいていないけれども、だんだんと近づいてくる。レジ打ちって、ちょっとだけスピードを早めたり緩めたりできるんですよ。それでレジ待ちの状況を見ながら、僕のところに来ないように調整しまして、他のレジに行ってくれた。あのときはバレるかなと、冷や冷やしましたね。

 新宿のビックロは大きいですから、人混みに紛れる感じで顔見知りに会うことはなかったですね。そういう意味では都会は潜入取材に向いている。

 まあ、どこに潜入するにせよ、外見は普通なのがいいですよ。目立たないですから。

写真=志水隆/文藝春秋