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本人が知らなかった取材の申し込み

――『ユニクロ帝国の光と影』(2011年)に、柳井正インタビューが載っているけれども、あれは柳井さんの感情が豊かに書かれて、人間味がある。いいインタビューです。

横田 もともと週刊文春に載ったもので、校了日だったかに急に決まったインタビューなんですよ。

 このとき、僕は柳井の人物論を書くことになっていて、広報に彼へのインタビュー取材をお願いしては、断られ続けていました。それでも一言でいいのでコメントが欲しくて、東京・渋谷の大山町にある彼の自宅まで朝駆けに行った。家の前でずっと待っていたら、朝7時くらいに柳井正を乗せた車が出てきたんですが、警備員に「のけ、のけ」といった感じで追い払われましてね、結局、柳井の言葉は取れませんでした。

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 そのとき初めて柳井は、自分のところに取材が来ていることを知る。車の中から僕を見て、「あれは誰だ?」と思ったんです。つまり、僕らはインタビュー取材を何回も申し込んでいたけれども、広報がストップをかけて、本人には知らせていなかった。ところがその朝になって柳井は週刊文春と僕が動いていることを知り、彼のほうから広報を通して文春に連絡して来たんです。

 僕は何の成果も得られず自宅に戻りまして、どうやって原稿を書こうかななんて思っていたら、担当の編集者から電話がかかってきました。「柳井さんが取材を受けてくれます。(当時ユニクロの東京本部があった)九段下まですぐに来て下さい」って。

「あなたがどんなふうに書くか見ていますよ」と言われた通り

――あれだけの大企業のトップが、当日にインタビューの時間を取ってくれたというのはいい話に聞こえます。

横田 いや、そういう甘い話ではない。柳井は一回くらい、横田とかいう奴の取材を受けてやって、太っ腹なところを見せてやろうと思ったんですよ。どういうふうに書くのかお手並み拝見という感じでね。

 

 当時のユニクロには浦(利治)さんという番頭のような人がいて、柳井のインタビューと相前後して彼が「柳井は恩義にうるさい人間なんです。あなたがどんなふうに書くか見ていますよ」みたいなことを言ってくるわけです。それでできた記事を見た結果、二度と柳井は僕の取材を受けない。だから僕は株主総会にまで彼を追っかけた。

 でも、あれはあなたのいうようにいいインタビューですよね。こういうざっくばらんな取材が10回くらい出来たら、面白い本になると思いますけどね。