どんな店長でも背景に会長兼社長の顔が見えるユニクロ
――『ユニクロ潜入一年』(2017年)の潜入取材では3店舗で働きますが、最後のビックロ新宿東口店(2022年に閉店)は、面接から強烈です。
横田 取材目的ではなく、たんに時給目的だったら、あの店では働かなかったですね。総店長が面接をするんですが、「朝7時半から出勤できないのか」とか「正月1月1日も来い」なんて言うんです。いやそれは……と断ると「それって、プロとしてどうなんですか?」と詰めてくる。そんなことを言われてもねぇ、時給1000円のバイトなのに。
でも「あ、この店舗は、面白い話が書けるかも」と思いました。総店長がいいキャラしていますからね(笑)。
――やはり店舗というのは、店長の色が出るものなのでしょうか?
横田 そうとも言えますが、ユニクロの場合は何ごとも、ほぼイコール柳井正(ユニクロを運営するファーストリテイリングの会長兼社長)です。僕が潜入取材した会社でいえば、ヤマト運輸だと数年ごとに交代するサラリーマン社長の会社なので、社長の色は弱い。
でもユニクロは、どんな店長であっても背景に柳井の顔が見える。めちゃくちゃなことを言ってくるビックロの総店長なんて、“ミニ柳井”というか、柳井の物の考え方の体現者のつもりだったんじゃないかな。
「鳥の目と蟻の目があるのがいい」とほめられて
――ユニクロでいえば、横田さんは店舗で働いただけでなく、経営者のインタビュー取材もすれば、株主総会に行ったこともある。一方で新聞社の記者だと持ち場がありますよね。警察担当であっても捜査一課担当、四課担当などと分かれるように。
横田 そうですね。僕のようなフリーランスは、垣根なくどこでも取材ができます。『「トランプ信者」潜入一年』(2022年)の取材でアメリカに行ったとき、日本のメディアの記者もいましたけれども、彼らは予備選挙の初戦となるアイオワ州など、特定の州しか見ない。取材費をふんだんにもっているのにね。いろいろな州で話を聞いて回るのは僕くらいだったりする。
――横田さんの潜入ルポの特徴は、労働現場の体験記にとどまらないことです。
横田 もう亡くなられましたが、米原万里さん(通訳・エッセイスト)が僕の初めての潜入ルポ『アマゾン・ドット・コムの光と影』(2005年)の書評を読売新聞に書いてくれたことがあります。「この作者には鳥の目と蟻の目があるのがいい」とほめてくれた。それを読んで、そうか経営者を見る目と、労働の現場を見る目の両方を持つことが大事なんだと気付かされました。
僕はもともと物流の業界紙(「輸送経済」)の記者だったのですが、そのとき、企業を知るには決算書をちゃんと読み、そこから物ごとを見ないといけないと教わりました。会社が引き起こす問題は、決算の数字を良くしようとした結果です。サービス残業などの労働問題だって同様です。
でも、ある企業について書こうとするとき、決算書の数字ばかりを取り上げても仕方がないし、労働者の話一辺倒でも味気ない。会社や業界の歴史を含めて書いていかないと、なかなか面白い本にはならないですよね。