年末のアマゾン潜入取材はイギリスの風物詩
――初めての潜入取材もアマゾンの物流センター(2003-2004年)でした。
横田 たまたまアマゾンの物流センターの求人を見つけて潜入取材を始めたのですが、そのときに思い出したのが鎌田慧さんの『自動車絶望工場』(1973年)でした。でもこの本にはノウハウみたいなものは書いていないわけですよ。それでも鎌田さんが「もういやだ」とか言いながらも一生懸命働く姿に、読んでいて好感が持てたので、僕も真似して懸命に働きました。
そうやって始めた潜入取材ですが、続けるうちにメモの取り方だったり、裁判対策だったり、いろいろなノウハウが身についた。それをまとめたのが今回の本(『潜入取材、全手法』)です。
――この本には、イギリスはアマゾンの物流センターへの潜入取材が「年末の風物詩」のようになっているとあります。
横田 BBCはもちろんですが、経済紙の「フィナンシャル・タイムズ」や高級紙といわれる「ガーディアン」も潜入しています。女性記者が入ったこともある。「週刊東洋経済」にアマゾンについて書いたとき、潜入取材の一覧表をつくったくらい、イギリスでは当時、クリスマスのある年末になると多くのメディアが潜入しているんです。
というのもアマゾンはひどい労働環境で、けれども徹底した秘密主義でなんでも隠そうとする企業だと認識されているからです。労働者の大半がルーマニアなどからの移民で、彼らを最低賃金で働かせていたりもする。だからジャーナリストはきちんとチェックしないと駄目だというのがコンセンサスになっています。
絶望さえ出来ないアマゾン物流センターの労働
――先程出てきた鎌田慧『自動車絶望工場』は潜入ルポであると同時に青春群像ものでもありますが、横田さんの潜入ルポに青春はなく、ケン・ローチの映画のような疲弊と閉塞がある。
横田 僕が潜入取材を通じて見てきたものは、デフレの現場だったと思います。ユニクロにしてもヤマト運輸にしても、そこで体よく、こき使われている人たちを見てきた。なかでもアマゾンは、人を使い捨てにする企業の典型ですよ。
最初の潜入ルポを出してから20年が経ちますが、僕の本や記事の読まれ方が変わっていきました。2005年に『アマゾン・ドット・コムの光と影』を出したときは、「そんなに嫌な仕事なら、やらなければいい」という声が多かった。ところが今では「人を安く使ってボロ儲けしている企業は許せない」というような意見が多くなっている。非正規雇用の問題がどんどん身近になっているのがわかります。最近CMでよく見る「タイミー」なんて、もっと都合良く人を使っている感じですもんね。
鎌田さんの『自動車絶望工場』の頃(1970年代)は、季節工といっても給料が極端に悪いわけではなく、正社員になれる可能性だってあった。そういう夢を抱いて工場に働きにきた人たちの「絶望」だった。けれども今日のアマゾンの物流センターの仕事には、最初から将来への希望はないですから、絶望さえ出来ない。