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他に仕事がなければ安く人を集められる

――『潜入ルポ amazon帝国』(2019年)の刊行時にも、私は横田さんにインタビューしています。記事の公開時、SNSで見かけた感想には、小田原の物流センターについて「あのあたりにはコンビニのバイトか、アマゾンしかない」などが多くありました。

横田 ドイツにアマゾンの労働組合の取材に行ったことがありますが、物流センターがドイツ人も知らないような地名の場所にあって、組合の人は「そういうところだと他に仕事がないので安く人を集められるからだ」と言っていました。同様に小田原もほとんど働く場所がなくて、アマゾンの物流センターが最後の受け皿だという人もいた。アマゾンはそのあたりをわかっている。

 

――現場で働くだけだと体験記に終わりますが、横田さんの場合は経営幹部にも取材をしますね。ユニクロも潜入取材するのは、柳井正が会ってくれないからです。

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横田 体験記というのは、(前篇で話した)「鳥の目」「蟻の目」の喩えでいうと、「蟻の目」だけになってしまう。身の回りの半径5メートルの話はそれはそれで面白いけれども、企業や業界の全体像までは描けない。一冊の本として成立させるためには、もうちょっと広い視点にしないと苦しいと思いますね。

労働問題に自分を近づけまいとしたヤマト運輸

――全体像を見ることでいうと、『潜入ルポ amazon帝国』ではアマゾンの荷物を運ぶ宅配業者のヤマト運輸も取材しますね。そのヤマト運輸には『仁義なき宅配』(2015年)を書くときに潜入取材をしています。

横田 そうですね。ヤマト運輸には最初、潜入するつもりではなかったんですよ。でも取材を申し込んだら、「不祥事(クール宅急便のずさんな温度管理が発覚)のみそぎが済むまで、あと1年くらい取材は受けられません」と広報が返事してきた。ところが次の日、日経新聞を見たら社長がインタビュー取材を受けている。企業は平気でウソをつきます。そうやってヤマト運輸が抱える労働問題だとかに、僕を近づけまいとするわけです。

 

 仕方なくヤマト運輸についての取材を細々と続けていたのですが、それだといつまで経っても本にはならない。そこで羽田クロノゲート(ヤマト運輸の物流ターミナル)にアルバイトとして潜入しました。ここは500人くらい労働者がいて、4割くらいが外国人。潜入取材のおかげでクール宅急便の実態も見ることができたし、社内報や労組の機関誌とか壁に貼ってある労働条件とか全部メモに書くこともできた。一人あたりの労働時間とか残業時間とか、いろいろ集めることができました。

――取材拒否が潜入取材につながり、読者にすれば、本が面白くなった(笑)。

横田 そうかもしれない。潜入取材しなくても書けたと思うけれども、それをしたことで1章分書けたし、潜入取材で入手した労働時間などの数字を並べて取材の申込みをしたら、広報の態度が変わり、常務がインタビューに応じることになった。