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サラリーマン社長の防衛本能

――その常務(長尾裕)が「横田さんは、すでにクロノゲートでお働きになっておられるので、おわかりのことと思いますが」というのに、ちょっと笑いました。

横田 長尾さんは当時常務ですが、その後、ヤマト運輸の社長になり、今はヤマトHDの社長を兼務している。彼からすると、僕に出世の邪魔をされるわけにはいかなかった。サラリーマンはサラリーマンで、面倒くさいジャーナリストを排除するんです。

――会社と経営者がイコールで結ばれるユニクロのような会社でなくても、記者を追いやるものなんですね。

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横田 いや、サラリーマン社長だからこそ自分が社長でいる5、6年を、ことなかれ主義で済ませたいという防衛本能が働くんですよ。「俺が社長をやっているあいだに波風をたてるな」「広報は横田とかいう奴を突っぱねてこい」となる。

 でも、ヤマト運輸の場合、本社は僕のことが大嫌いなんだけれども、ドライバーたちは本社と対立関係にある人たちもいるので、彼らが僕に情報をどんどん提供してくる。「会社から『横田というのが潜入する可能性があるから気をつけろ』とメールが回ってきた」なんてことを、ドライバーたちがすぐに教えてくれるんです。

 ヤマトには「赤社報」と呼ばれる、社内で起きた不祥事をまとめたものがあって、それをPDFで送られてきたこともある。本社が「サービス残業がない」と言ったあとに、赤社報にはサービス残業について書かれていたりするんです。

宅配便の創業者としては見直されるべき佐川清

――『仁義なき宅配』について話を引っ張らせてください。佐川急便の創業者・佐川清は、一般には悪人として書かれるのが通例です。しかしこの本では割と好感をもって書かれているように読める。それが面白い。

 

横田 そうですね。佐川清については、自民党の政治家に「500億円バラまいた」と自分から言うくらい派手に政治献金をしたり、従業員に過酷な労働を強いたり、いろいろあったのは事実なんだけれども、宅配便の創業者としては見直されるべき人物だと思っています。官僚と闘うなどしたヤマト運輸の生みの親・小倉昌男が善で、佐川清が悪として捉えられることが確かに多いけれども、そんな単純な話ではない。

 小倉昌男は、アメリカでUPSという輸送会社を見て宅急便というビジネスモデルを知り、それを日本でやり始めた。これがあたかも日本での宅配便ビジネスの始まりみたいになっている。でも、その20年近く前に佐川清が始めているんですよ。最初は大阪の問屋から京都のカメラ屋まで商品を自分で担いで国鉄に乗って運んだんです。

 精密機械はトラック業者が嫌がりますからね。佐川急便は今では当たり前のドア・ツー・ドアで荷物を集荷して届けることの先駆けでもある。この歴史をすっ飛ばして、ビジネス成功物語としてヤマト運輸や小倉昌男を書くのは違うだろって思う。