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『青春デンデケデケデケ』で見た大林組の現場

―― 僕も『青春デンデケデケデケ』でタイトルバックと冒頭の夢のシーン担当で参加させていただきました。

恭子 そうでしたね。ありがとうございました。

―― 僕は別班でしたが、観音寺のロケーションでは本隊の撮影の様子も見させていただきました。『デンデケ』ってすごく大変な作品でしたよね。スーパー16の3カメで、テストも無しにシーン全部を回していく。カメラポジションを変えて何度も撮り、全てがOKで編集の素材になる。それまでと全然違うスタイルの1本目でした。

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『青春デンデケデケデケ』 ©大林宣彦事務所

恭子 そうですね。

―― 前例となる作品がなかったから、スタッフはどういう仕上がりになるのか全然分からなかった。

恭子 そうでしょうね。

―― ラッシュ(注2)も参加しました。現場の混乱がそのまま写っているラッシュを見てスタッフは不安になっていました。

恭子 あの時は不安だったと思います。

―― 監督はドキュメンタリーのような生き生きとした面白さを喜んでいたと思いますが、いい画を撮りたいと思っているスタッフたちは、まともに仕事をさせてもらえないと不満に思っていた。作品が完成してようやく理解できるんですが。

『青春デンデケデケデケ』 ©大林宣彦事務所

恭子 そう思いますね。それは時々ありましたね。いろんな作品で。

千茱萸 最後の最後までその姿勢は変わりませんでした。常に現場は監督の頭の中の動きに沿って変わってゆくことが多かったです。新しく入ったスタッフは監督の演出に混乱したり、俳優部は「本当にこれでいいんだろうか」と不安になることも多かったはずです。ことに大林組が初めての役者さんは、現場に迷惑をかけないようにと事前に演技プランを作られて挑む。けれど監督は現場で閃くとひょいっと演技プランを変えてしまう。そしてみんなが寝静まったあとに粘り強く台本と睨めっこして書き込み、書き足し、混乱していた現場の辻褄を紡いでゆく。だから監督の台本は映画が仕上がるまでの差し込み(注3)も多かった。夜中に書いた新しいセリフが俳優部の泊まる宿のドア下から差し込まれることもあるので、みなさん朝起きてギョッとすると。でも監督は「あなたが昼間現場で素晴らしい演技を見せてくれたから、もっと見たくてセリフを足したよ」と笑顔で殺し文句を(笑)。