1ページ目から読む
2/2ページ目

ユー 実際にはそれほど難しくはなかったですね。きちんと申請すれば大抵は大丈夫です。確かに地下鉄は申請が通りにくいので、ドキュメンタリー的に撮りました。たとえば映画でギョン・トウに反則切符を切る警察官が出てきますが、パトカーや警官の制服が出てくるような場合は、地域の警察に申請をして、警官立ち合いのもとで撮影しなければなりません。それは、俳優が演じる警察官が本物だと間違われないためなんです。

リム・カーワイ(以下、リム) ギョン・トウは香港の人ですが、なぜ彼に台湾人の役を演じさせようと考えたのでしょうか。

ユー 彼にやってもらった役は、ダンスが出来て、演技が出来て、台湾華語を話せなければなりませんでした。台湾やアメリカでも俳優を探していたんですが、なかなか見つからなかった。そこでプロデューサーがギョン・トウを推薦してくれました。私は彼のことを全然知らなかったのですが、オンラインで彼と話してみて、とてもスクリーン向けの魅力があると感じました。そして彼はダンスも演技もできるし、なまりのない台湾華語を話すこともできるんです。

ADVERTISEMENT

藤井 ビビアン・ソンさんもこうした異国の中で戦うという役を見たのは初めてでしたので、とても新鮮で素敵でした。

ユー・シェンイー監督

 本作は映画内の時間軸では最初のほうの場面が最後に再び描かれる“円環構造”を持っているが、観客からその狙いについて質問が出た。

ユー こうした3つの物語がある映画をいくつか観て参考にしたのですが、なかでも『ビフォア・ザ・レイン』(1994)という作品は時間と人間が交錯する構成をしていて、とても面白いと感じました。900万人が住む大都会で人びとが行きかうさまを表現するのにもいいと思いました。

ギョン・トウは自転車に乗るのはとても上手です

 また、ギョン・トウのファンだという観客から「彼の演技が観られて大変嬉しかったが、公園で自転車を漕ぐシーンで、(乗り方が)すごく不安定に見えたのですが、あれは演出なのでしょうか」と質問が出ると、ユー監督は爆笑。

ユー 彼は実際には自転車に乗るのはとても上手です(笑)。ですが、一緒にいた彼の恋人役の女優が、あまり自転車に乗るのがうまくなかったんですね。彼女に合わせてゆっくり漕がなければならなかったので、不安定に見えたのかもしれません。

登壇した藤井道人監督(左)とリム・カーワイ監督(右)

リム おふたりにとって台湾映画の魅力はどういうところにあるのでしょうか。

藤井 去年台湾の仲間たちと映画を作りました。ホウ・シャオシェン(侯孝賢)やエドワード・ヤン(楊德昌)の映画を観てきましたが、台湾映画には言葉にならない温かさがあって、それは皆さんも感じると思います。また、若い監督たちは今までとは違った新しい台湾映画をつくろうとしている。そういう様子を見て、僕も元気をもらっています。

ユー 台湾映画の根底にはいつもヒューマニズムがあります。若い作り手たちはいろいろなジャンルの映画に取り組んでいますが、その中にもこのヒューマニズムという伝統は脈々と受け継がれていると思います。

『ニューヨーク狂騒曲』