2021~2023年、競馬界を沸かしたイクイノックス。武豊のドウデュースや川田将雅のリバティアイランドなど名だたる名馬を相手にしながら、勝利し続けたその実力とは?
小川隆行氏らが歴史的な名馬のエピソードを執筆した『アイドルホース列伝 超 1949ー2024』(星海社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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人生で衝撃を受けた「3つのレース」
昭和50年代から競馬を見続けて半世紀近くが経った。この間、衝撃を受けたレースと馬を三つ挙げてみたい。
一つはサイレンススズカの毎日王冠。馬体重452キロの小柄な馬が、直線の長い東京コースでハナを切ると、上がり35秒1の脚で5連勝中のエルコンドルパサーを2馬身半チギったレースである。次走で競走中止となり天に召されたが、1カ月後にエルコンドルパサーがジャパンCで魅せた末脚をみると、「無事だったら…」と思わずにはいられなかった。
次はディープインパクトの皐月賞。スタートで出遅れるも終わってみれば2着以下を2馬身半チギる圧勝劇。「なんじゃこの馬は!」と、それまでにない衝撃を覚えた。GⅠを7勝した名馬は、馬名通り深い衝撃を与えてくれた。
最後はイクイノックスが3歳時に走った天皇賞・秋。スタートから逃げたパンサラッサを10番手から差し切った末脚は、長年競馬を見てきた中でも目にしたことのない内容だった。
1頭だけ別次元の末脚。グレード制導入後、4頭目となる3歳馬の制覇は、レース史上もっとも少ないキャリア5戦での栄光。この先どんな競馬を見せてくれるのか、と期待で胸が膨らんだ。
イクイノックスに立ちはだかる「大きな壁」
同馬はローテーションも異例だった。2戦目の東京スポーツ杯2歳Sを圧勝すると、半年ほどレースに出走せず皐月賞へ挑んだ。年明け初戦が皐月賞だった馬はコントレイルなど数頭目にしてきたが、半年ぶりというローテで大外枠から2着を確保。続く日本ダービーではドウデュースにクビ差の2着。クラシックは惜敗続きで勝てなかったものの、3歳秋以降の6戦では毎回のように衝撃を与えてくれた。
3歳馬として史上5頭目の天皇賞馬となったイクイノックスは次走で有馬記念も勝った。キャリア6戦でのグランプリ制覇は史上最短。この2レースが評価され、年度代表馬に選出された。
4歳春にドバイシーマクラシックに出走、従来のレコードを1秒も縮めてGⅠ3連勝を遂げると、帰国後は宝塚記念に駒を進めた。圧倒的1番人気に支持されたが、このレースは波乱含みにみえた。初の阪神コースで斤量58キロと初物づくしであり、GⅠ7勝を果たした父キタサンブラックも宝塚記念は9着と凡走している。父も4連勝をしたことなどなく、イクイノックスにとって大きな壁だと感じてしまった。