その理由は、従前であれば労基署に駆け込むしかなかった労務トラブルが、関係者の積極的な広報により、「法テラス」(法務省)、「労働相談ホットライン」(全国労働組合連合会)や、個人単位で加入できる「合同労働組合(ユニオン)」、そして昨今サービスの興隆を見せている「退職代行サービス」など、労基署以外のトラブル解決手法にリーチしやすくなったことや、人手不足で求人が増えたことを背景に、トラブルが複雑化する前に、ブラック企業にアッサリ見切りをつけて辞めるケースが増加したことなどが考えられる。
トラブル相談は高止まりだが、内容に変化
全国の労働局や労働基準監督署など379カ所に設置されている「総合労働相談コーナー」に寄せられる労務トラブルの相談件数は16年連続で100万件を超え、高止まり状態にある。
数字だけを見ればブラック企業は減っていないように感じるが、その内訳をみると、平成24年以前は相談割合として最も多くを占めていた「解雇」にまつわる相談件数が減少し、同年以降は「いじめ・嫌がらせ」、そして平成27年度以降は「自己都合退職」の相談件数が上回っている。
自己都合退職にまつわる相談とは、「辞めたいのに辞めさせてもらえない」(慰留、在籍強要、退職妨害)ということであり、いじめ・嫌がらせとはいわゆる「パワハラ」である。
労働者はブラック企業に見切りをつけて辞めたいのに、会社側は辞められると困るからなんとか引き留めようとする。引き留めがエスカレートしてハラスメント行為に至るという、「人手不足により、労働者に見捨てられるブラック企業」の構図が透けて見える。やはり、「ブラックのままでは生き残れない」のだ。
「働きやすい企業」への競争が激化している
人手不足の影響で、とくに優秀な人材を採用したい企業においては、他社との差別化のためにも賃上げや労働環境改善を実施せざるを得ず、1社が実施すればその採用競合にあたる企業も後追いするため、結果的に労働条件改善競争が発生している。求職者にとっては絶好のタイミングである一方、労働条件を改善できないブラック企業にとっては採用・定着に大きく課題を抱える形になっている。