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――社会調査を実施したことも影響したのではないですか。

先代の理事長・蓮田太二さんは、預け入れに訪れた女性を追いかけてはならないというお考えでした。もちろん、熊本市に対してそうはおっしゃらない。なぜなら、運用開始に当たって、私は預け入れにきた女性をなるべく相談につなげてほしい、なるべく名前を名乗ってもらって匿名での預け入れを避けてほしい、とお願いしていましたし、そのときは「わかりました」とおっしゃった。

ですが、実際の運用では対応が違っていて、私は市長を退任する際にもその点を強く申し入れました。この「匿名性」をめぐって対立した。私はゆりかごの設置を許可しましたが、両手を挙げて賛成するという立場ではありませんでした。

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赤ちゃんポストや内密出産が不要になる未来へ

――内密出産をめぐる状況をどう見ますか。

内密出産の親の情報を現状では慈恵病院が管理していますが、これこそ、公の機関が責任を持って担うべき役割です。

――慈恵病院の蓮田理事長も同じ意味の発言をしています。(※連載第4回参照)ただ、親の情報を熊本市に渡したら、内密出産に関する特定法がない現状では、児童相談所は児童福祉法に則って社会調査をしなければならないのではないかとの危惧があるとも言っています。

それなら、検証報告書が示しているように、国が法律を整備するまで運用の開始を控えるべきだったのではないでしょうか。そうでないと、現状の運用はあまりに不安定で、私は慈恵病院が孤立して追い込まれてしまわないだろうかと懸念しています。

――厚労省が内密出産のガイドラインをつくったのは慈恵病院が内密出産の受け入れを開始した9カ月後でした。法整備には10年単位で時間がかかるとの意見があります。

私たちが法整備を急ぐように声を上げていかなくてはならないでしょう。そのためにも、何かしら橋渡しのような役割が果たせないかと思っています。内密出産については熊本市が検証部会を発足するべきです。そういうことをちゃんとやっていかないといけない、そのことも声を上げたい。

2007年のスタート時、赤ちゃんポストが使われなくてすむ社会を目指そうと、蓮田太二さんと誓い合いました。子どもの命や権利を守ることにとどまらず、預け入れなくてはならない女性の背景を掘り下げる視点が、今後、他の地域で広がっていく赤ちゃんポストや内密出産の運営にも生かされることを願います。

三宅 玲子(みやけ・れいこ)
ノンフィクションライター
熊本県生まれ。「ひとと世の中」をテーマに取材。2024年3月、北海道から九州まで11の独立書店の物語『本屋のない人生なんて』(光文社)を出版。他に『真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園』(文芸春秋)。