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「今、トラスト・ミーという言葉が軽くなったとおっしゃった。確かにそうですね。トラスト・ミー、軽くなったのはトラスト・ミーだけではありません。マニフェストという言葉も軽くなった。近いうちにという言葉も軽くなった」

「近いうちに」は、その年の8月8日、「社会保障と税の一体改革」関連法案の参議院での成立を確実にするため野田が谷垣と公明党の山口那津男代表に「近いうちに国民の信を問う」と約束したことを指している。ところが、その後、民主党内の反発に加えて、韓国、中国との間で領土をめぐる緊張が起こった。

 野田は、防戦を迫られた。

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「ここで何も結果が出ないというわけにはいかないと思っているんです……お尻を決めなかったら決まりません。この(衆院の定数削減の)御決断をいただくならば、私は今週末の十六日に解散をしてもいいと思っております。ぜひ国民の前に約束してください」

 野田は、最高裁に「違憲状態」と指摘された一票の格差是正とそのための定数削減をこの国会で実現させることを安倍に要求したのである。

 安倍は、定数是正要求には直接、答えずに、野田に解散を迫った。

「野田総理、年末に解散・総選挙を行って、そして国民の信を得た新しい政権がしっかり予算を編成して、そして思い切った補正予算を組んで、経済を立て直していく必要があるんですよ。総理がその前提条件をつくるべきだと言ったから、私たちは特例公債について賛成をするという大きな判断をしましたよ」「今、野田総理がやるべきことは、もうこの混乱をやめ、終止符を打って、そして新しい政治を始めていきましょうよ」(発言する者あり)

 野田「いずれにしてもその結論を得るため、後ろにもう区切りをつけて結論を出そう。十六日に解散をします。やりましょう、だから」

 安倍は畳みかけた。

「今、総理、十六日に選挙をする、それは約束ですね。約束ですね。よろしいんですね。よろしいんですね」

「十六日に解散をしていただければ、そこで、皆さん、国民の皆さんに委ねようではありませんか。どちらが政権を担うにふさわしいか、どちらがデフレを脱却し、そして経済を力強く成長させていくにふさわしいか、そのことを判断してもらおうではありませんか。そして、この外交敗北に終止符を打って……」

「どちらの政党が、美しい海と日本の国土、領海、国民を守ることができるかどうか、それを決めていただこうではありませんか。選挙戦で相まみえることを楽しみにしております。どうもありがとうございました」

 野田「技術論ばかりで覚悟のない自民党に政権は戻さない。それを掲げて、我々も頑張ります」(拍手)

 

 安倍の死後、安倍を追悼する「お別れの言葉」で野田が形容したように、この時の党首会談はまさに「一対一の『果たし合い』の場」だった。(中略)

 11月16日、衆議院が解散された。投開票日は12月16日と決まった。