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秘書官グループが記した政権運営構想メモ

 12月2日。この日、今井(尚哉)、北村(滋)、田中(一穂)の3人の秘書官経験者が東京・四谷の「藤すし」に集まった。これに先立って、今井は北村と田中に、安倍政権ができた場合、自分は首席の政務秘書官になると告げ、新政権の「政権運営の注意点」を洗い出し、それを基に第二次安倍政権の政権運営の構想と手順を一緒に整理したい、と言って呼びかけた。

 めいめい要点を書きだしたメモを回し読みし、それを基に議論した。会合はその後、10日、16日、そして政権発足の前日の25日と合計4回、開くことになる。最後の25日の会合には安倍が加わった。

 メモ(12月2日)は、次のように記していた。

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 まず、当面の総選挙にどう臨むか。

「自民、公明で安定多数(絶対安定多数の269に達するかは微妙な情勢)を確保し、来年7月の参議院議員選挙において、過半数を確保して与野党間の捻じれを解消し、安定的政権運営が可能な政治勢力を結集」

 参議院の議員定数は242。従って過半数は121となる。各政党の現有議席数は、民主党86、自民党84、公明党19、みんな18、共産党11、日本維新の会9。自民党と公明党で連立政権をつくるのであれば、与党として121以上、自民党は少なくとも100を超える議席を取らなければならない。

 基本は、自民党と公明党との与党連立をしっかりと維持することである。

「公明党現執行部の中には、例えば、漆原(うるしばら)氏のように、安倍執行部に疑念を持つ向きも存在。丁寧な連立対応が不可欠」

 公明党には安倍に対する拒否感を持つ向きが少なくない。そのうちの一人が漆原良夫国会対策委員長(衆議院議員、新潟県)であると注意を喚起した。漆原は自民党の国会対策委員長の大島理森とは「悪代官」「越後屋」コンビとして汗をかいた。ただ、憲法九条改正反対、首相の靖国神社参拝反対の立場を明確にしており、安倍の右寄りの政治理念には批判的だった。

 一方、日本維新の会との関係には注意を要する。

「最大の問題は、維新代表の石原慎太郎氏。同氏の『NOと言える日本』での言説、横田基地返還の主張、核兵器保有発言等から米国の親日的知識人においても反米的色彩の強い人物との認識。連立・連携については対米関係を十分に視野に入れて対処する必要(中略)」

 メモには「脱派閥、挙党体制、世代交代を人事で実現。『お友達』との批判を全力で回避」という文字も見える。

 来る安倍政権の組閣・党内人事の基本的考え方を述べたものだ。

 そして、「対霞が関」。官僚機構にどのように対するか。民主党政権時代、官僚の士気と質は著しく低下した。従って、「官僚を虐(いじ)めて国が良くなるかのような風潮を改める」必要がある。

 まず、「永田町と霞が関との和解を象徴する施策、例えば、事務次官会議の復活」を考える。それから、「局長級の役人が総理執務室に入室可能とする」。

 民主党政権では政治主導の掛け声の下、事務次官会議を廃止した。官僚が政治家に接触するのも制限する空気があった。そうした官僚バッシングを改め、官僚を上手に使う必要がある。安倍はこの点に関して「民主党はバカだよね。役人と競い合ってんでしょ、役人なんてね、やれって言えばやるんだよ」「責任はこちらが取る、あとはちゃんとやれ、という政治家と官僚の役割分担なんだ、同じ土俵じゃないんだよ」と口癖のように言っていた。