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クラッシュ・ギャルズの人気は爆発的に高まった

 リングアナと花束嬢がリングを下り、王者組が揃いのジャンパーを、挑戦者組がパンタロンスーツを脱ぐとすぐに試合が始まった。

 ゴングの余韻も収まらぬ中を赤いピンストライプの水着で先発した千種は、かつて「犬のションベン」と嘲笑された足裏での蹴りをジャンボ堀に連発する。

 千種は張り切っていた。今日はついに自分たちがベルトを獲得する日なのだ。

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長与千種 ©文藝春秋

 蹴りが一発も当たらぬまま、千種が飛鳥にタッチすると、館内のコールは「チ・グ・サ!」から「ア・ス・カ!」に変わった。「ビューティ・ペア時代にもなかった大興奮、後楽園ホール」と志生野アナ。ビューティの時代のファンは歌だけを求め、試合中は静まりかえっていた。だがクラッシュはプロレスそのもので観客の心をつかんでいる。

 ジャンボ堀に代わった大森ゆかりは、大きな身体を利して飛鳥を投げ飛ばすものの、場外乱闘をきっかけにクラッシュ・ギャルズが攻勢に転じる。

 最後は長与千種がジャーマン・スープレックス・ホールドで大森ゆかりを沈めた。

 クラッシュ・ギャルズの王座奪取に、後楽園ホールを埋め尽くした女子中高生たちは欣喜雀躍した。

 全日本女子プロレスとフジテレビのもくろみ通り、クラッシュ・ギャルズの人気は爆発的に高まった。瞬く間にスーパーアイドルとなったクラッシュ・ギャルズは、芸能雑誌、一般の新聞や月刊誌、週刊誌、プロレス専門誌の取材に追われた。

 テレビの歌番組に多数出演したのはもちろん、レコード会社対抗の運動会にも参加し、フジテレビの水泳大会でも活躍した。プロレスラーがアイドル歌手に運動会で負けるわけにはいかない。意地でも勝ちに行った。

 さらにTBSドラマ「毎度おさわがせします」のレギュラー出演が決まった。撮影当日は朝6時から緑山スタジオでリハーサル。本番を7時から12時までの間に撮り終えた後、急いで試合会場にクルマで駆けつけるという強行軍だった。

 翌85年には全国6カ所でミュージカル「ダイナマイト・キッド」を上演した。ファンクラブの会員は1万人を超え、後楽園ホールの試合は電話予約だけで完売した。女子プロレス中継の視聴率も瞬く間に20パーセントを超えた。

 全日本女子プロレスには巨額の金が転がり込み、松永兄弟は我が世の春を謳歌した。