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「フォーク」に施した、ある工夫

 基本的にダンプは道具屋である。凶器を駆使してクラッシュ・ギャルズを痛めつけることが仕事だ。

 凶器を使うにも頭が必要だ。

 たとえばダンプ松本が長与千種の頭をフォークの尖った部分で刺す。本気で刺せば、傷は骨まで達する。刺された千種は痛いに決まっているが、とりあえずそのことは問題ではない。プロレスが痛いのは当たり前だからだ。

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ダンプ松本 ©文藝春秋

 問題は別のところにある。

 フォークで刺されて痛い思いをしているにもかかわらず、血がほとんど出ないことが問題なのだ。血を見せなくては何にもならない。

 プロレスとは、観客のために存在するものだからだ。

 長与千種の痛みは、血が流れることによって観客に伝わる。血が流れなければ、千種の痛みが観客に伝わらない。

 反省したダンプは、次の試合ではフォークの枝の横の部分を鋭利に研いでおいて、スパッと皮膚を切り裂いた。口に入れるフォークには本来丸みがあるはずなのに、ダンプ松本が使うフォークは妙に尖っていて、エッジだけがピカピカに光っている。おそらくヤスリで研いだのだろう。長与千種の目には、その輝きがはっきりと見える。

 フォークばかりではない。ハサミ、有刺鉄線、鎖、竹刀、ダンプ松本は様々な凶器を駆使して千種を痛めつけた。

 悪役レフェリー(!)阿部四郎は、ダンプの凶器攻撃を見て見ぬふりをする。

 赤コーナーにいるライオネス飛鳥は盟友千種に声援を送り、観客の少女たちもまた、スーパーヒロインの危機を、息をのんで見守っている。

 会場にいる人々の視線を一身に集めつつ、リングの中心で血を流し続ける長与千種は、試合のすべてを支配する演出家でもあった。

1985年のクラッシュ・ギャルズ

1985年のクラッシュ・ギャルズ

柳澤 健

文藝春秋

2014年3月10日 発売