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怒りを鎮めるため、まずは深呼吸をした。少し時間をおいて、僕は韓国語でこう言った。

「どうして英語で話すんですか。悲しいです。傷つきました」

場の空気が固まった。シーンとした。その人は驚いて目を丸くして、キョトンとしていた。理解できていなかったのだと思う。

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すると、僕の知人が加勢してくれて、「この人は韓国語を聞き取れますよ。私たちの話を理解しています」と言ってくれた。

今振り返ると、「一言でそんなに怒らなくても」という気もする。だけど、いざ面と向かって言われると、尊厳を傷つけられたような気がした。侮辱されたと感じた。こういう人は一度も外国に出たことがないのだろう。想像力のない人だから相手にする必要はないが、だからといって何を言われてもいいわけではない。

無意識の偏見がだれかを傷つけている

いまの世の中、やっぱり言われた側がどう感じるかが重要だと思う。近年、ハラスメントの認定基準は、言った側の意図とは関係なく、言われた側の主観的な感じ方が重視される。傷ついたときには「傷ついた」と言う権利はあるはずだ。自分の気持ちを表明する機会は保障されるべきである。

近年、このような発言は「マイクロアグレッション」と呼ばれている。マイノリティの属性をもった人に対して無意識に尊厳を傷つけたり、敵意を示したり、排除したりする言動を指す。「日常に潜む攻撃性」と説明されることもある。

僕は、日本でもたびたびマイクロアグレッションに出くわすことがある。初対面の人に名前を名乗ると、「日本語が上手ですね」とか「日本には長く住んでいるのですか」と言われることがあるのだ。

もちろんイラッとする。僕は古文が昔から得意だし、日本史はセンター試験でほぼ満点だったし、今でも明治期以降の外交文書や擬古文はスラスラ読める。ライターもしているし、「あなたより日本語能力は高いですよ」と思う。生粋の大阪生まれで、関西弁をこんなにべらべら話しているのに、「日本に長く住んでいるか」なんて愚問でしかない。