安田 シネマ・ロサの担当者が「今年一番の作品にする」と意気込んでくれて、お客さんも応援してくれて、TOHOシネマズさんやGAGAさんが全国でやろうと言ってくれて。その人たちの頭にも『カメ止め』のヒットの記憶があったのは間違いないです。でも実は、配給会社にお願いする前に自分の力で「ここまではやろう」と決めていたことがあるんですよ。
――何を決めていたんでしょう。
安田 自分1人で大手のシネコンと話して、上映を決めてもらうことです。最初に松竹さんがのってくれて、その後にTOHOシネマズさんも声をかけてくれました。感動したのは、最初に声をかけてくれはった松竹さんが上映館を決めるまで、TOHOさんが待ってくれたんです。
あんな大きなシネコンさんに「ちょっと待ってくれ」なんて、どれだけ失礼なことを言ってるんだと心配になったんですが、松竹さんがまず14館を決めてくれて、それを見たTOHOさんが松竹さんと商圏がカブらない映画館を選んでかけてくれることになりました。シネコンの方々が、ちゃんと本作のことを考えてくれるのが本当にうれしかったです。
――ライバル同士で対立しそうなところ、より多くの観客に届けられる形にしてくれたんですね。
「自主映画だと、怪しい配給会社に…」
安田 本当に驚きました。2つのシネコンさんに加えて単館の映画館からも依頼がいっぱい来て、トータルで50館くらいまでは自分で決めました。自主映画だと、怪しい配給会社に「300万円くらいで、全国で何館か上映を決めてきますよ」とか言われて、伝手もないから頼んでしまうことがよくあるんですわ。
でもよく考えたら、単館系の映画館なら1館あたり1週間20万ぐらい払えば上映できるんですよ。だから本当は100万円あれば5館くらいは上映できるはずですよね。それなのに200万とか300万とか言いよる配給会社があるんです。
――自主制作という経験のなさと足元を見てくる配給会社があるんですね……。
安田 でも今回、怪しげな配給会社を介さなくても作品が面白ければシネコンが直接買ってくれるんやという前例ができたから、ぼったくられる監督が少しでも減ってほしい。本作は上映してくれるところが増えてきてさすがに手が回らなくなったので、GAGAさんに配給として入ってもらうことにしました。
そこからはGAGAの方が本当に頑張ってくれてあっという間に上映館が300以上に。TOHOさんも盛り上げてくれて、しかも最初から上映してくれてた池袋のシネマ・ロサさんや川崎のチネチッタさんとカブらんようにしてくれて……。映画人の心意気を本当に感じました。