――お米を作ったお金で映画を作る?
安田 いやお米って、うちくらいの規模だといくら作っても赤字なんですよ。親父は元公務員で恩給(年金)がそれなりにあったので、田んぼを管理できなくて困ってはる人から預かっていたんですが、親父が亡くなったときに調べてみて赤字なことがわかりました。
それで申し訳ないんですけど預かってたぶんはお返しして、今は自分の家の田んぼだけです。それでも一町半ほどあって……去年はじめて冬季の荒起こしから田植え、水の管理、稲刈り、脱穀までやりましたが、時間がとられて他の仕事がままならない。お米ができたときはやっぱり嬉しかったけど、大赤字でした。
――赤字でもお米は作るんですか。
安田 米作りはうちの家に代々続いてきたもので、長男やし家業としては続けたいんです。『侍タイ』がなんとかヒットさせてもらったから、その分でしばらくはやっていける感じになりました。もし映画があかんかったら、米作りはしばらく休もうと思っていたところでした。
「1割も成功率がないものに2000万も投資するなんて無謀」
――『侍タイ』のヒットにお米の運命もかかっていた。
安田 そうなんです。自分としては『カメ止め』の成功を見て勇気づけられたところもあったので、今回はお金を全部突っ込みましたけど、よう考えたらかなりの博打ですよね。普通の商売やと7割くらいは成功率がないと投資しません。今回のように1割も成功率がないと感じるものに2000万円も投資するなんてギャンブルです。もちろん自分なりにはいろいろ研究したけど、こんな風にヒットさせてもらえるのは奇跡だと思ってます。
――『カメラを止めるな』のヒットは自主制作映画の世界でそれほど大きなことだったんですね。
安田 そりゃそうですよ。ただ『カメ止め』に勇気はもらったけど、あんな発明のような大胆な構成や脚本は自分にはとても作れない。だから僕が目指したのは「『カメ止め』のように劇場でゲラゲラお客さんが笑って最後拍手してくれる映画」。脚本や手法はオーソドックスでも、クオリティーを上げていくことであの域に到達することができるんやないか、と考えました。あとは、『カメ止め』を1回きりの奇跡にしないのが大事やと思ってました。
――どういうことでしょう?
安田 『カメ止め』の大ヒットは自主制作で映画を作る人間に希望を与えたんですけど、「『カメ止めは』特別で、あんなことはもう二度と起きない」となってしまったら寂しいじゃないですか。だから、ちゃんと方向性を決めて作ればあの奇跡も再現性があるんだということを証明したかったんです。
――最初は配給会社もなしで池袋シネマ・ロサの単館上映だったところから300館以上の上映になり、まさに再現できることを証明しましたね。