たった1館の上映からスタートし、SNSなどの口コミを中心に人気に火がつき全国153館まで拡大している『侍タイムスリッパー』。“インディーズの時代劇”という異例の作品の快進撃は“『カメラを止めるな』の再来”と呼ばれることもある。
「脚本がない」という噂や、「伝説の斬られ役」福本清三さんとの関係、そして撮影現場での喧嘩などについてお話を伺った。
「福本さんが2021年にお亡くなりになって、自分もショックを受けて…」
――『侍タイ』はどんなふうに始まった映画だったんでしょう?
安田淳一監督(以下 安田) 時代劇・歴史劇ジャンルを対象にした「京都映画企画市」という2017年のコンペがきっかけでした。コンペ用のアイディアを考えてる時に、お侍が現代にタイムスリップするドタバタなCMを思い出して「“5万回斬られた男”の福本清三さんが現代にタイムスリップして斬られ役になるのは面白いんやないか」と思いついたんです。それで企画書を出してなんとかファイナリストの5人には残ったんですが、最終プレゼン7分でつい喋りすぎて自己紹介だけで5分を越えてしまって(笑)。もちろん結果はダメでした。
――それでも、企画自体は福本清三さんにも出演していただく形で進んでいたんですよね。
安田 そうなんです。ただ福本さんが2021年にお亡くなりになって、自分もショックを受けてこれはもうおしまいやなと思ってました。でも、翌年の5月に福本さんのマネージャーだった方に東映に呼ばれてたんですよ。何だろうと思って行ったら、東映京都撮影所の名物プロデューサーだった進藤盛延さんや、美術部や衣装部、ヘアセットをしてくれる床山さん、刀のレンタル会社の社長さんがずらっと集まっていたんです。
――東映の方々が、『侍タイ』を応援してくれていた。
安田 ずっと時代劇を作ってきた方々ですからね、緊張しました。でもその彼らが「自主映画で時代劇をやる人がいたら、普通は全力で止める。でもこれはホン(脚本)がおもろいから、なんとかならへんかなとみんな集まってる」と言うんです。
それで「7~8月は時代劇を撮れへんからオープンセットが空いてる。安く貸してあげるわ」とか、衣装さんも「あるもんのレンタルだけやったら」、刀も「しゃあないな」と破格の値段で提供してくれて。結局『侍タイ』は2600万円かかったんですが、東映が本気で撮ったら2億円くらいかかる内容でしたから。