日常的に暴力を振るう父親に育てられ、学校や部活で体罰を受けて育ったという心理カウンセラーの太田基次さん(49)。当時26歳の妻・瑠美さん(37)からのプロポーズを受けて結婚生活を始めてから、育った環境から受けた負の影響の大きさに、向き合わざるを得なくなってしまったという。
この記事はノンフィクションライター・旦木瑞穂さんの取材による、太田さんの「トラウマ」体験と、それを克服するまでについてのインタビューだ。
旦木さんは、自著『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』(光文社新書)などの取材をするうちに「児童虐待やDV、ハラスメントなどが起こる背景に、加害者の過去のトラウマが影響しているのでは」と気づいたという。
親から負の影響を受けて育ち、自らも加害者となってしまう「トラウマの連鎖」こそが、現代を生きる人々の「生きづらさ」の大きな要因のひとつではないか。ここではそんな仮説のもと、期せずして父親のような“加害者”になってしまったという太田さんの過去、そして当時の瑠美さんの葛藤に迫る。(全3回の2回目/続きを読む)
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険悪な新婚生活
瑠美さんのプロポーズを受け入れた基次さんだったが、結婚生活は順風満帆とは言えなかった。
「結婚生活は生活費を折半する内容で合意はしていましたが、自分が一回りも年上で、結婚観として『夫が妻を養うもの』という考え方が無意識的にあり、常に『頑張らないといけない』という思いがありました。また、そのプレッシャーとは別に、35歳の頃から公的機関や福祉施設、企業内でのカウンセリングに従事する他に、自営業者としても心理カウンセラーを始め、二足のわらじ状態となって、完全に業務量がオーバーしていたのです」
寝る間も惜しんで働き、日常的に高ストレス状態にあった基次さんは、常にイライラするようになり、家の中で癇癪を起こしたり、些細なことでキレて、不機嫌オーラを撒き散らすようになった。期せずして基次さんの父親と同じ状態になっていた。
「身勝手な話ですが、僕の思い通りに動いてくれない妻に、『何でわかってくれないんだ!』という思いから常にマグマのような怒りがありました。思い通りに動いてくれないと言っても、僕は妻に直接要求はしていません。『言わなくてもこれくらいわかるだろう』『察してくれよ』と思っていたのです」
もちろん人間にテレパシーはない。ましてや結婚して数ヶ月の2人だ。具体的な要求もせず「思い通りに動いてくれない」は無茶な話すぎる。
一方、そんな基次さんに瑠美さんは戸惑うばかりで、次第に2人の空間に、息苦しさを感じるようになっていった。ここからは妻・瑠美さんの言葉も紹介する。