かつて、年下の妻が自分の思う通りに動いてくれないことに憤り、離婚寸前まで追い詰めてしまったという心理カウンセラーの太田基次さん(49)。自身の“モラハラ加害者体質”と向き合い始めると、育った環境から受けた負の影響の大きさにも、向き合わざるを得なくなってしまったそうだ。
この記事はノンフィクションライター・旦木瑞穂さんの取材による、太田さんの「トラウマ」体験と、それを克服するまでについてのインタビューだ。
旦木さんは、自著『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』(光文社新書)などの取材をするうちに「児童虐待やDV、ハラスメントなどが起こる背景に、加害者の過去のトラウマが影響しているのでは」と気づいたという。
親から負の影響を受けて育ち、自らも加害者となってしまう「トラウマの連鎖」こそが、現代を生きる人々の「生きづらさ」の大きな要因のひとつではないか。ここではそんな仮説のもと、太田さんの半生に迫る。(全3回の1回目/続きを読む)
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DVの父親と信頼できない母親
関西在住の太田基次さん(49歳)は、鉄工所を経営する父親と、専業主婦の母親のもとで、一人っ子として育った。
両親の出会いは父親が27歳、母親が25歳の時の知人の紹介がきっかけだった。もともと鉄工所に勤めていた父親は、30代の時に独立してからというもの、早朝から深夜まで働き、日曜日も仕事をしていたため、家にはほとんどいなかった。だが、たまに家にいる時は、家事が得意でなかった母親を怒鳴りつけたり、時には平手打ちするなど、常にイライラしている様子だった。
幼い頃から落ち着きがなく、食べ物の好き嫌いが多かった太田さんも、日常的に父親に怒鳴られ、殴られることも珍しくはなかった。
「嫌いなものを残すと、父にゲンコツで殴られました。泣くと『泣くな!』と怒鳴られ、またゲンコツで殴られました。頬を平手打ちされたこともあります。そんな時母は、『やめて! なんでそんなことするの!』と止めてくれたり、『いい加減にして! もう離婚する!』と庇ってくれましたが、父がその場からいなくなると、『お父さんを怒らせないようにして』と父を擁護するので、心からは母を信頼できないと感じていました」