年下の妻が自分の思う通りに動いてくれないことに憤り、離婚寸前まで追い詰めてしまったという心理カウンセラーの太田基次さん(49)。自身の“モラハラ加害者体質”と向き合い、妻との関係修復に取り組む中で、自分を縛り付けていたマイルールの数々は両親からの影響によるものが大きいと気づいたという。
この記事はノンフィクションライター・旦木瑞穂さんの取材による、太田さんの「トラウマ」体験と、それを克服するまでについてのインタビューだ。
旦木さんは、自著『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』(光文社新書)などの取材をするうちに「児童虐待やDV、ハラスメントなどが起こる背景に、加害者の過去のトラウマが影響しているのでは」と気づいたという。
親から負の影響を受けて育ち、自らも加害者となってしまう「トラウマの連鎖」こそが、現代を生きる人々の「生きづらさ」の大きな要因のひとつではないか。ここではそんな仮説のもと、太田さんが“モラハラ体質”をどう脱したのか、その方法に迫る。(全3回の3回目/最初から読む)
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「~すべき」のマイルールに縛られる
まず基次さんは、カウンセリングを受けた。
カウンセラーは、
「抑うつ状態で、自分の問題と向き合う気力も無いので、まずは自身の回復に努めましょう」
とアドバイスをした。
さらに、発達障害のことを相談したかった基次さんは、精神科を受診。すると、ADHD(注意欠如・多動性障害)とASD(自閉スペクトラム症)の混合型と診断され、抗うつ剤や発達障害の治療薬であるストラテラ、睡眠導入剤が処方された。
基次さんは抱え込んでいた仕事を減らし、きっちり睡眠をとり、意識的に趣味の時間を設けるなど努めるうちに、体調が回復。
アンガーマネジメントを学び、カウンセリングを受けることで、自身の怒りの根源を理解し、自分がキレてしまう仕組みが少しずつだがわかってきた。
「僕がキレるのは、相手が自分の『~すべき』という『マイルール』を破った時です。馬鹿にされたり、恥をかかされたりしたと感じると、裏切られたという気持ちに変換され、癇癪として怒りが出るということがわかりました。怒りの感情をコントロール出来れば、モラハラは抑えられると確信したため、ノートに日々『腹が立ったこと』『許せないこと』を書き出し、どのような状況でどんな喜怒哀楽の感情を感じるのか、『本当はどうして欲しかったのか』本音を記録して、自己理解を深め、だんだん自分のキレるパターンを把握することが出来るようになっていきました」
それは自分の取扱説明書を作る作業だった。
「自己理解を深めることで、事前に対策を打てるようになり、イライラしやすい状況や環境を回避できるようになりました。また、自身の認知を理解することで、イライラする場面に直面しても、以前よりも怒りのゲージが上がらなくなっています」