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 基次さんは、自分の中にあった「マイルール」を書き出してみた。

 すると、「夫は妻を養うべきだ」という「マイルール」の根源は、完全に父親の影響だと気づいた。

「父は身を粉にして働いており、母も『うちの夫はよく働くし真面目で優秀』『男は甲斐性が必要』と言っており、そんな両親の影響を受けて、自分の『マイルール』が強固なものになっていったように思います。しかし僕は父のように人一倍働くことはできず、頑張りすぎると妻に皺寄せがいったり、僕自身が倒れてしまったこともありました。そこで、父の理想や『マイルール』通りにはなれない自分に折り合いをつけ、『自分は自分のペースで精一杯やればいい』と考え直していきました」

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 自分を縛る「マイルール」がある一方で、他人を縛る「マイルール」もあった。

 例えば、

・妻は夫に感謝すべき

・女性は控えめであるべき

・妻は夫を立てるべき

・仕事はプライベートより優先すべき

 というものだ。

 これらも、両親の姿を見て無意識に作られたものだった。

 基次さんは無意識に自身の母親と妻を比較して、夫である自分を立てず、自分ばかり目立とうとするように見える妻に苛立ちを覚えていたのだ。

「これは典型的な男尊女卑の思想だと今は分かりますし、マザコン体質な自分を心底気持ち悪く感じますが、当時はそれが当たり前だと考えていました。こうした『マイルール』の根源には、両親だけでなく、自分自身の人生の中で抱えてきた劣等感や自己肯定感の低さがあるということに気づき、自分が過去の嫌な経験を妻に投影していたことが分かると、少しずつ怒りの量も頻度も減っていきました」

 基次さんは、瑠美さんに「妻」だけでなく、「母親」や「友だち」、「同僚」といった、妻以外の役割までも勝手に期待して、それを瑠美さんが完璧に担ってくれないと怒っていた。

 そんな問題のある自分に気づき、葛藤し、ダメな自分を受け入れ、反省や対策を繰り返していくうちに、少しずつ「マイルール」を手放すことができていった。それはすなわち、“モラハラ加害者体質”を変えることだった。

「感情日記」の効果

 基次さんは、瑠美さんから「実はあなたとの離婚を考えていた」と言われてから約10年経過した現在も、どのような状況でどんな喜怒哀楽の感情を感じるのか、「本当はどうして欲しかったのか」などを書き出す「感情日記」を今でも続けている。

©beauty_box/イメージマート

 これにより基次さんは、1ヶ月に1度以上怒りの爆発があった頃に比べ、現在は6ヶ月に1度くらいの頻度にすることができているほか、子どもの頃から苦手だった、自身の感情を言語化する力を身につけていった。

 怒ること自体をなくすことは難しいが、身体中を震わせるほどの強い怒りを感じていた以前に比べると、怒りの量や強さ自体も減らすことができているようだ。

 さらに、基次さんと瑠美さんは、約10年前、「モラルハラスメントを相談できる場所がない」と感じたことから、2015年に「モラルハラスメント解決相談所」を開設。現在まで、加害者・被害者に関わらず、モラルハラスメントに関する悩みを解決に導いている。

 この「モラルハラスメント解決相談所」でも「感情日記」をつけるワークは導入されている。自分自身に向き合う作業は地道で楽しいものではないが、加害者自身の“モラハラ体質”改善だけでなく、被害者であるパートナーに、加害者の“モラハラ体質”改善の努力を可視化できるという意味でも役立っているようだ。