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「最近では『毒親』や『親ガチャ失敗』という言葉が広まっていますが、それによって『自分がモラハラ加害者や毒親になったのは全て親のせいだ』と、自分の生きづらさやモラハラ行為をすべて親の責任にする、いわゆる“他責思考”も広がっていると感じています。確かに、自分の生きづらさの原因を探る過程で、毒親からのDVやモラハラが影響していることに気づくのは大切ですが、自己の問題として向き合わない限り、現実は変わりません。問題の原因に気づいたのであれば、いつまでも毒親に囚われているのではなく、今後、より良い“自分の人生”を築くために、『自分はどうしていくべきか』という問題解決の視点に切り替えることが必要だと思います」

トラウマの連鎖を止められるのは自分だけ

 毒親育ちの人が、自分の親が毒親だったと気づくタイミングは、人生で4回あると筆者は考えている。1回目は一人暮らしを始めた時。2回目は結婚した時。3回目は子どもを持った時。最後は、親に介護が必要になった時だ。

 この4回は、数が増えるごとに気づく可能性が増す。もちろん毒親の度合いにもよるが、1回目や2回目では気づかない人もいる。独身の人、子どもを持たない人は、なかなか気づきにくく、親の介護でようやく気づくケースも少なくない。つまり、それほど気づくことが難しいということだ。そして、気づくのが遅れれば遅れるほど、“自分の人生”を生き始めることが遅れてしまう。

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 約10年前に「モラルハラスメント解決相談所」を開設した基次さんは、これまで「モラハラを改善したい」という相談を何件も受けてきた。だが、「パートナーに指摘されて来た」という人がほとんどで、「自ら気づいて来た」という人は1割程度しかいないという。おそらく自分のことも自分が育った家庭のことも、“疑いを持たないまま生きている人の方が一般的”だということだろう。

 最後に基次さんはこう話す。

「“モラハラ体質”を、体の中から完全に消し去ることは出来ないと思います。でも、本気で自分の問題と向き合うことで、衝動的な怒りは確実に軽減されます。これは間違いありません。今でも妻とケンカすることはありますが、頻度は10分の1ほどに減りました。また、仮にケンカになっても、怒りに囚われる時間は確実に短くなり、すぐに関係を修復出来るようになりました。こんな自分に改心するチャンスを与えてくれた妻には感謝しかありません。

太田基次さんと妻の瑠美さん(左) 本人提供

 あの時、自分の“モラハラ体質”に向き合わずにいたら、その後の人生も怒りの感情に振り回され続けて、結果的に妻も仕事も失い、人生のどん底から這い上がってこれていなかっただろうなと思います。自分を変えられるかどうかは、自分の本気度と、自身の問題点を指摘してくれる人の存在、『あなたおかしいよ』とツッコんでくれる存在との関係性を構築できるかどうか、これが非常に大切であると感じます」

 自分を変えられるのは自分だけ。トラウマの連鎖を止められるのもまた、自分だけだ。