――実際に会ってみて、どうでしたか。

ブローハン 義父の家に上がると、玄関に母の写真が飾ってあって。それを見たときに「お母さんのことを大事に思っていてくれてたのかもしれない」と思い、なんかもういいや、という気持ちになりました。

 話していくなかで「俺は悪くない」という発言が出ましたが、それだけ器が小さな人だったのだと気付けましたし、今の自分にとって義父はどうでも良い存在なのだと思えたのは良かったですね。僕の義父への執着はそこで終わったといいますか。

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「卒業後は看護師として働け」児童養護施設退所後の就職先で騙され…

――18歳で施設を退所されたと思いますが、それからブローハンさんはどのように生きて来られたのでしょうか。

ブローハン 寮付きの仕事を探していたときに、たまたま病院の事務職に就職が決まったんですね。ところが初出勤の日、突然目の前に契約書を出されて「2年間看護学校に通い、卒業後は看護師として働け」と言われたんです。

 学費は病院が立て替えること、卒業してから5年間その病院で働けばその学費は免除してもらえることを説明されましたが、逆に言うと、それまでにやめた場合は約100万円ほどの学費が全額自己負担になるわけです。

――騙された、というわけですか。

ブローハン そうですね。養護施設出身者が他に逃げ場がないことを知ってそういう手口を使っているのでしょう。さらに、面接時に聞いていたよりも給与の手取りが下がっていて、額面22万円に対して手取りが10万円ちょっとしかありませんでした。

 それでも僕には他に帰る家もないので、その契約書にサインをするしかありませんでした。

 

消費者金融に借金、次第にうつ症状も

――養護施設出身者の方が、退所後に同じような問題に直面することも多いのでしょうか。

ブローハン 多いと思います。そもそも就職先の選択肢が少なくて、もしも辞めざるを得ない状況になれば、収入源も住む場所も同時に失いますから、リスクがものすごく大きい側面があって。大人でも失敗をすることがあるのに、18歳の子どもにとって失敗ができない状況に突然立たされるって、すごく厳しいと思います。

 僕自身、働きながら看護学校に通う日々で、フィリピンにいるお母さんの家族たちに仕送りをしていたこともあり、体力的にも経済的にも窮地に立たされてしまいました。だんだん生活が回らなくなり、消費者金融に借金をしたりして家族に迷惑をかけないようにしていたんですが、次第にうつ病っぽくなってしまって。