西城秀樹が自身のベストパフォーマンスをあきらめず歌う。ファンが昔と変わらぬ熱量で応援する。コール&レスポンスは、ずっと続いていたのである。

 もちろん、絶唱系と呼ばれる激しい振りと叫びが入る楽曲は、脳梗塞のあとは、歌唱するにもリスクが伴った。しかしそれをもと通り歌うようになることが、彼自身の目標にもなったし、新たなアレンジで進化したものもあった。(全3回の3回目/#1#2から続く)

1985年3月、科学万博開会式のセレモニーのフィナーレで歌う西城秀樹 ©時事通信社

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「もう一度デビュー」

 本人もお気に入りだったのが「ギャランドゥ」。アレンジをアコースティックに変えることで、大人の渋みを増した。

 還暦イヤーの2015年4月13日に発売されたアルバム「心響 -KODOU-」の1曲目を飾る「恋する季節」の新バージョンもその最たる例である。「恋する季節」は彼のデビュー曲だが、当時はオリコン46位とさえない結果で、しかも、もともと別アーティストが歌うはずだったのが偶然回ってきたおさがり曲だった。

 そんな、少しほろ苦い想い出のデビュー曲は、アコースティック・ギターをメインにしたシンプルなアレンジで、秀樹だからこそ歌える、素晴らしい楽曲に昇華している。その出来栄えは、

「二度目の脳梗塞から立ち上がり、三度目の人生をスタートしたばかりのぼくには、ふさわしい曲目のように思える。もう一度、デビューするつもりでステージに立とう!」というライナーノーツからも、彼の自信が見える。

「心響 -KODOU-」は、病と闘いながら、1年間かけて制作されたアルバム。往年のヒット曲の再録だけでなく、新曲「蜃気楼」が収録されているが、歌声は、脳梗塞の後遺症をまったく感じさせない。4月13日のオリコンデイリーアルバムランキングでサザンオールスターズ、福山雅治に次ぐ3位、インディーズアルバムランキングでは1位に輝くなど、反響も大きかった。

 しかし、これらの精力的な活動の裏で、西城秀樹はもう一つの難病に罹っていた。2014年、脳神経が次々と脱落していくという原因不明の病「多系統萎縮症」を宣告されている。

 リハビリではカバーできない体調不良を抱えながら、2015年4月には、赤坂BLITZで還暦コンサートを開催し大成功させている。サプライズ出演した野口五郎が、

「1回だけ、恥ずかしいけど抱いていいか? 人生で1回だけだよ。70になったらやらないよ」

 と抱擁。しかし、野口は後日、このとき西城秀樹の全体重が寄りかかり「こんなギリギリで立ってたのか」と知り、全身が震えたと語っている。

 それでも2015年〜2016年ごろまでは年間70〜80本のコンサートに出演。最期のステージは2018年4月14日の「同窓会コンサート」。4月25日、自宅で倒れ意識不明となり、5月16日、家族に看取られ、息を引き取った。