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そのような状態が改善されないため、雅彦さんはいつしか仕事をすることを諦めてしまいました。その後、外出する頻度もめっきり減り、ひきこもりのような生活を20年以上も続けてきたそうです。

そこまで話が進んだところで、雅彦さんはお金の不安を語り出しました。

「将来、母が高齢者施設に入居したとします。すると母の年金のほとんどは施設利用料などに充てることになると思います。自分の収入は障害厚生年金だけなので月に約5万円。これだけではとても自分自身の生活費はまかなえません。仮に一人になった後の生活費を月10万円だとすると、月の赤字額は約5万円。1年間で約60万円になります。自分の預貯金は500万円くらいですから、それを取り崩すといっても8年くらいしか持ちません」

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「そうなると、お母様の預貯金(3600万円)を雅彦さんの生活費に充てることになるでしょう。場合によっては、ご自宅を売却して住み替えることも検討しなければならないかもしれません」

この筆者の発言に対し、雅彦さんは鋭い視線を向けてきました。

「もし母が認知症になって成年後見人がついたら、母名義の預貯金は自分(雅彦さん)の生活費に充てることはできなくなりますよね? また、万が一、障害厚生年金の更新がうまくいかずに支給停止されてしまったら自分は無収入になってしまうので、預貯金はあっという間になくなってしまいます。『考えすぎ』と言われてしまえばそれまでなのですが、どうしてもそのようなことが頭から離れず、不安でいっぱいになってしまうのです。欲を言えば自宅は売却せずにそのまま住み続けたいと思っています。そのような不安を解消するための対策を早めに実行し、少しでも安心したいのです」

雅彦さんは切実な表情でそう訴えました。横にいる母親も心配そうに雅彦さんを見つめています。

「なるほど……。事情はよく分かりました」

相談を受けたFPが提案した「相続時精算課税」での贈与

雅彦さんから一通りお話を伺った筆者は、次のような提案をすることにしました。