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陰茎にカメラを入れる検査の恐さたるや

 仕事の忙しさや私生活の充実ぶりを理由に挙げてはいるが、僕が病気と真剣に向き合おうとしなかった最大の理由は別にある。じつに情けない話だが、検査がこわかったのだ。それは検査に伴うであろう「苦痛」への恐怖もさることながら、一番嫌だったのが、人前で生殖器をさらけ出すことへの「恥ずかしさ」だった。

写真はイメージ ©getty

 前立腺がんの検査となると、膀胱鏡検査は避けて通れない。陰茎から尿道内に内視鏡を挿入し、尿道と膀胱の内部を観察するこの検査の苦痛については、かつて仕事の発注元だった出版社の社長から聞かされた体験談が強烈に印象に残っていた。

 詳しいことは忘れたが、必要があって膀胱鏡検査を受けたその社長は、あまりの激痛に耐えかねて、検査途中で膀胱鏡を自分で引き抜いた──と話していた。かなり話を盛る人なので大いに脚色された話だとは思うが、膀胱鏡の痛みを語るときの社長は目に涙をためていた。彼が経験した苦痛は、あながち大嘘でもなさそうだった。

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 最近は胃カメラや大腸内視鏡検査でも鎮静剤を使って行う「無痛検査」をウリにする医療機関が増えている。僕もこれらの検査を受けるときは無痛検査を選ぶ。一度でもその快適さを経験してしまうと、もう元には戻れない。

 胃カメラや大腸内視鏡検査でさえあれほどつらいのに、陰茎にカメラを入れる検査が痛くないはずがない──と僕は思っていた。その恐怖心を、例の社長の体験談が強力に補強していたのだ。