血尿が出ただけじゃなく、検査で出た数値も異常…がんの疑いが濃厚な状況でも、ベテラン医療ジャーナリストの長田昭二(おさだ・しょうじ)氏が検査に行くのを後回しにし続けた「自営業者らしい理由」とは? 新刊『末期がん「おひとりさま」でも大丈夫』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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忙しさを理由に検査を後回し
PSAの数値が「4.0」の大台を超え、近所のかかりつけ医は泌尿器科の受診を勧めてくるようになった。だが、僕は仕事の忙しさを理由に、受診を後回しにし続けていたのだ。
当時の僕は仕事量が右肩上がりで増えている時期で、実際問題として「検査や治療を受けている暇がない」状況ではあった。会社員ではなくフリー(自営業)の僕は、働けば働くだけ売上げは伸びる。だから「忙しいことがうれしい」という思考に支配される。
忙しさを理由にすれば何でも片が付くような感覚に陥っていた僕は、恥かしい話だが目先の銭につられて検査を後回しにしてしまったのだ。
働き盛り世代の人ががんなどの重大疾患にかかり、手遅れになるケースの多くが「忙しさ」を理由にしている。今後働き方改革が進めばこうした考え方の人も減ってくるのかもしれないが、僕は「旧い世代」の最後尾に間に合ってしまった。
そしてもう一つ、私生活が充実していたことも挙げられる。離婚のストレスで痩せた体を鍛え直す肉体改造が成功し、趣味のマラソンが面白くて仕方ない時期でもあったのだ。若い頃からスポーツに親しんで体力を付けてきた人と違って、中高年になってからの急拵えで体格がよくなったタイプの人間は、人生において失敗することが多いような気がする。少しばかり胸板が厚くなったり腹が凹んだだけなのに、何だか偉くなったような、あるいはモテているような錯覚を起こすのだ。
僕などもまさにその一人で、病気のことを無視して、暇さえあれば神宮外苑の周回路を走り回り、その時間が無ければ腕立て伏せをする。そしてプロテインを飲みながら「がんの早期発見の重要性」を説く原稿を書く毎日。言っている(書いている)こととやっていることが完全に乖離していたのだ。